7-1 運命の人
七.花宴
「騒いでも無駄だよ、話はつけてある」
光は女を抱き下ろし、一室に連れこんだ
戸を閉め、ぎゅっと抱き寄せる。
お酒の匂い?
かぐわしい香のすき間から、甘い酒の香りがした。
ずいぶん酔ってらっしゃるわ
男が光であることを知って、女は少し安心した。
動揺が、興味に変わる。
「何か、ありましたの?」
「抱いて、今は。何も訊かず」
ただ忍びてこそ*―
女はそっと警戒を解いた。やわらかな弾力で男を受け入れる。
甘えさせてくれるのか
やさしいな
光はつよく求めた
ひどく酔っていて
宴の彼女を思い出していた
朱雀に呼ばれ、そば近く寄ったときも
乞われて、すこし舞ったときも
目を伏せながら、ずっと見ていた
立ちて、のどかに、袖かへす所を、一をれ、気色ばかり舞ひ給へるに*
桜の中の俺を、彼女はどんな思いで見ただろう。
光二十歳の春だった。
みな一緒に歳をとって、あの子は二歳になる。
会えないかな
宴の夜、かすかな望みを抱いて藤壺あたりを徘徊した。
だが、どの戸口もその心のように、ぴったり閉っている。
さすが、ガード固いな…
その用心が切なくも、また自分の女として好ましくも思えた。
帰る気になれず、弘徽殿に立ち寄ると
「朧月夜に似る物ぞなき」と、うち誦して、こなたざまに来るものか*
若く美しい声で歌う女があった。
きたきた
つい嬉しくて捕まえる。
女の誰かはわからなかった
弘徽殿さんの妹たちか
つきとめて、もう一度会いたいと思う。
弱みを見せてしまった気がしていた
葵にも紫にも見せぬ心のうちを、女の体内に残してきた気がする。
会いたかった
会って口止めに抱きたい
抱きこんで、もっと切なさを共有したい
それにふさわしい女だと思った
同類相憐れむ
一夜抱きあった瞬間から、俺たちは同じだと感じる。
「やけに気を持たせるねえ。またれてぞ、渡り給ふ*ってか」
夕暮れになって右大臣邸に来た光を見て、蛍は思わず苦笑した。
敵地への出陣よろしく、やけに着飾って登場する。
「どうしたの、こんな所へ」
隣に座ってわき腹をつついた。
「懐に入って敵状視察?」
「まあ似たようなもんだよ。お前は?」
「俺はどこにでも顔出すのさ。どっちにもいい顔しとく」
「さすが世渡り上手だな」
「必要なだけさ、政治部キャップとしてはね」
こうして情報集めてるのか、と光は観察した。
さすが蛍、フットワークが軽い。
「何がキャップだよ、お前のは単なる芸能ゴシップだろ」
「同じことさ、この都ではね」
蛍はウインクすると、軽い調子で別の仲間の輪に入った。
夜が更けていく。
光は女を探しに立った。ひどく酔ったふりで廊を歩く。
流行り物ばかり身につけた女房が軽々しく思えた
奥ゆかしい面影の、藤壺に会いたい。
女を探してその手を捕えた。
「また会えないかな?忘れられないんだ」
女も嘆息した
「私も困ってますわ、忘れられずに」
答える声があの人だった
光の溺れる、運命の人。




