6-6 出でずなりぬ
光はすぐ文をかいた。
「まさしく俺たちの子ですね。でも、あまりに似すぎていて」
よそへつつ見るに心はなぐさまで露けさまさる撫子の花*
命婦は文を見せた。見せて返事をうながす。
「ただ、塵ばかり、この花びらに」*
藤壺もさっきのことで、深く心に沁みるものがあった。
「この子がこんな事情を持っていなかったなら。心から喜びあえますのに」
袖ぬるる露のゆかりと思ふにもなほうとまれぬ大和撫子*
ほのかに書きさしたようなのを、喜んで光に送った。
いつものことだから、また無視されるだろうな
がっかりふて寝していた光は、返事がきて、胸がさわいだ。
こんな事情がなかったら、か
たしかにそうだけど、そんなこと思わせたくない
子に堂々と名乗りして、誇り高い、立派な貴人に育てたいと思う。
だから、もう少し待ってよ。俺の地位が上がるまで。
光は西の対へ行った。
物思いばかりするので、独りでいたくなかった。
紫は可愛くて、小さいながら琴も上手に弾いた。
左手で弦をおさえ、一心に弾く姿がとても可愛らしい。
光の笛ともうまく合わせた。難しい曲を、たった一度で学び取ってしまう。
可愛いくせにできる子だ
光は満足を覚えた。
顔だけでなく、中身もイメージどおり育ってくれるな。
思いながらふと、彼女はどうなのかなと考えた
彼女も俺に似た子を、大事に育ててくれるだろうか。
もちろんあちらは血のつながった母子だから、可愛がるのも当然だろう
けど。
それでも、彼女があの子を可愛がるさまを、近くで見たいと思った。
俺の代わりに、あの子が母の愛を受けて育ってくれれば
それを間近で見られれば、それだけで満足できそうな気がするのに。
ほかなる程は、恋しくやある*―
「俺が出かけると、恋しいの?」
紫はこくんとうなずいた。
「俺も君を見ない日は苦しいよ。でも君が大きくなったら、他へ行ったり
しないからね」
光は微笑んだ。紫がひざで眠ってしまう。
やわらかかった。やわらかで温かで、光はそっと撫でた。
今日はいいや、ここで寝よう。
「出でずなりぬ」*
そういって起こすと、紫はむにゃむにゃ起きた。
一緒にごはんを食べる。
「本当に行かないの?ならここで寝て」
紫は、他へ行かせまいとこんなことを言った。しかも可愛く。
こいつ、小さいながらに策士だな
しかもその策は、俺のど真ん中をついている。
可愛がりながら、翻弄されてるのは俺の方かもしれないと思った
こんな可愛い人をおいて他へなんて、とても行けない気がする。




