38-4 君そのものを
「生まれ変わっても、ずっと一緒にいようね」
「えっ、またあなたとですの?」
「いやなの?」
「ちょっと」
「ええっ…」
小さな紫を背中から抱きすくめながら、光は切なげに嘆息した。
紫がくすりと笑う。
「じゃあ、今度はあなたが女になって下さい。私が男になるから」
「それで?」
「女のあなたを、いっぱいいじめてあげますわ」
「ひどいなあ。俺そんなにいじめた?君のこと」
「いじめましたよ」
「でも埋め合わせもしたでしょう?たくさん」
「取り返せないものもありますわ」
やさしく笑って、紫は遠くを見る。
「あなたに会えて、とても楽しかったと思いますわ。いろいろつらい
こともあったけど、誰より幸多い人生だったと感謝しております」
「でしょ?俺よりすぐれた男はこの世にいないんだって」
光はいつもの顔で笑うと
ずっとひとつ、気になっていたことをきいた。
彼女をはじめて抱いた夜からずっと、気になっていたこと。
「あの時さ、俺の他に誰か、好きな人いた?」
「いましたよ」
「えっ…どんな?」
「昔のあなた」
美しく微笑されて、さすがの光も困ってしまった。
「そうか…昔の自分には勝てないね、さすがに」
もうあの頃のようなままごと遊びには戻れないと思った
俺たちは、夫婦になってしまったから。
もう親子にも、兄妹にも戻れない。
「男の方って不思議ですのね。親のような顔と子どものような顔を、
いつも一緒に持ってる。どなたにもそうですの?」
「誰にもってわけじゃないけどね。気を許して、子どもの顔をさせて
くれる女が魅力的なことはたしかだよ」
「甘えん坊なのね」
「そりゃ、いつまでだって甘えたいさ」
微笑んで、小さな人を懐に抱いた。
今にも崩れて、とけてしまいそうな体
どうかもうすこしだけ、俺と一緒にここにいて。
「私のこと、すきでした?」
紫の声は細く、かすかに響いた。
「すきだったよ、誰より」
「初恋の方より?」
光ははっとして
でも次の瞬間には、にっこり笑うと
「君を手に入れた時はたしかに、その人のことを想ってた。でも君と
暮すうちに、君のことが大好きになってね。今はもう他の誰でもない、
君を、君そのものを、深く愛してる」
まっすぐな声でささやく。
「ふふ…嘘ばっかり」
紫は楽しそうに笑うと、光の胸で寝返りをうった。
「ありがとう。私もあなたが大好きでしたわ。あなたしかいなかった。
他の人を知らなかったから…」
眠そうにまぶたを閉じると、頬をすり寄せて言った。
「ずっと、抱いていてくれますか?小さい頃からそうだったから、もう
慣れてしまって。あなたの胸じゃなきゃ、うまく眠れないの」
「うん。ずっと抱いてるよ」
光はその眠りをあえて止めようとはしなかった
もう、いつ何がおきてもおかしくない所まで来ている。
睡眠を深くしようと、酒に薬を入れてのんだ
よい子はまねしちゃだめだよ
俺は残せないから。
紫をひとりで行かせることはできないから。
ずっと、そっと、いつまでも
よりそっていたいと思うんだ。




