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朱雀と弟  作者:
第四部  借り物を返す旅路のはじまりにさしのべらる手二度と離たず
173/175

38-3 今日から明日へ

「もし明日死ぬとしたら、どんな一日を送りたいですか」

「今日と同じ一日を。送りたいです」

朱雀はそう言って微笑した。

「同じ時間に起きて、同じ祈りをして、

やり残したことがあっても、眠いから明日でいいやと枕元において

今日から明日に行くように、逝きたいです」

それが、夕霧のきいた最後の言葉だった。

「えっ、死んだ?」

彼すら気づかぬほど何の前触れもなく

朱雀は亡くなる。

紫よりも先だった。

おやすみなさい、と眠ってそのまま

朝になっても起きない。

朱雀さん…

その幸せそうな顔に、思わず笑ってしまった。

ずるいな、そういう死に方

本人は楽でも周りがつらいよ

朱雀はいつものように

やさしく、やわらかく微笑している。

すやすや、本当に気持よさそうな寝顔だった

起こすのが気の毒なほどで

だから起こそうとはしなかった

そっと、やさしく撫でて

「おやすみなさい、朱雀さん」

淡い微笑のまま、静かに見送る。

夕霧にハンカチは必要なかった

こぼれる涙はすぐ乾く

昔からあまりにも

人を送るのに慣れすぎてきた自分だったと思った

いつも自分だけ遅れて

でももうすこし死ねない

俺には家族がいるから、と思う。

「朱雀さんを頼むね、かあさん」

顔も覚えてない人に、そっと後見を頼んだ。

でも大丈夫だよな、俺は覚えてなくたって

ふたりはちゃんと、わかりあえるだろうから。

じゃあ、またね。

天に昇る煙を

見えなくなるまでずっとずっと見送る。

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