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朱雀と弟  作者:
第四部  借り物を返す旅路のはじまりにさしのべらる手二度と離たず
172/175

38-2 ははをこそ

「お父様をよろしくね。寂しがりな方だから」

「いやよ」

明石女御はゆるく首をふった。

縁起が悪いと思いつつ、つい涙がはらはら落ちる。

「かあさまともっと一緒にいたいの。生きて、かあさま」

「大丈夫。少し離れるだけよ」

紫は淡く笑って、そっと後ろの明石を見た。

明石も泣きそうに目をうるませて、じっと紫を見ている。

花散里も控えめに、紫の見舞いに来ていた。

「私はパスするよ。そういうの苦手だから」

末摘花はそっと背を向けつつ、体にいいと言われる薬草を

たくさんひそかに差し入れた。

皆が一様に、紫の容体を心配した。

そして幼いこの人も。

「いと、恋しかりなむ。まろは、内裏の上よりも、宮よりも、ははを

こそ、まさりて思ひ聞ゆれ。おはせずば、心地むつかしかりなむ」*

匂宮は、のちの悪辣ぶりを微塵も見せぬ可愛さで

紫を母とよんだ。

「大人になったらここに住んで、この紅梅と桜を可愛がってね。

仏さまにもお供えして」

匂宮はまだ五歳だったが、こくんとうなずいて約束した。

涙が落ちそうになるのをこらえて、たたたっと駆けていく。

かわいいな

彼が子でなく孫であるなんてことが信じられない紫だった。

たしかに、彼女はそのくらい若い。

彼らの成長が見られたら。

だがそれも難しいようだった

夏がすぎ、秋が来て。

紫はやせて、だいぶ小さくなっていた

それでもなよなよとらうたげに、起き臥しを繰り返している。

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