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朱雀と弟  作者:
第四部  借り物を返す旅路のはじまりにさしのべらる手二度と離たず
171/175

38-1 最初からやるなよ

三十八.御法

「どうなさったんです?尊い方がお二人も」

春、紫はすこし具合がよくて、起き上がっていた。

最近は寝たきりでいることが多い。

病がだいぶ進行してきている。

「ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」

朱雀は深く頭をさげた。

三宮の件について、とにかく一度紫さんに謝りたい。

その一念で、光の許しを得て

御簾の前に座らせてもらったのだった。

紫は奥の寝所に、光に支えられ、しずかに座っている。

「まあ、今さら謝るくらいなら最初からやらない方がよかったですね」

微笑んでばっさり斬るので、朱雀は撃沈した。

もう何も言えず

「はい、おっしゃるとおりで…」

お白州に引き出された罪人よろしく、泣きそうな顔で平伏している。

華奢な体がさらに縮んで、消え入りそうに見えた。

「むう、兄貴は何でも真に受けちゃうから」

光は苦笑して、紫の毒舌を制した。

「ごめんなさい、冗談ですよ」

紫はふふと笑って朱雀を見た。

その微笑

やさしいが、今にもこの世から消えてしまいそうな美とはかなさを

そっとたたえている。


「知っていましたわ、すべて。三宮さまが話してくださいました」

二人は本当に仲良しだったらしかった。

柏木と出会い、少しずつ惹かれあったこと。例の夜のことなど、

三宮は紫に話していたらしい。

「…」

朱雀は何も知らなくて、ただ驚きながら聞いた。

台本が違うと、こんなふうになるのか。

一人の動きに触発されて、他の人との関係まで、玉突き的に変化する。

「お子さんの誕生って、とてもすばらしいことでしょう?私は子が生め

ない女でしたが、新しい命の誕生を喜ぶ心は持っているつもりです。

三宮さまにお子さんが生まれて、そのショックで病が重くなったとお思

いになったのですか?そんな、人の出産を恨めしく思って重病になる

ような女に、私、見えますでしょうか」

「いえ、そんなことは。めっそうもない」

朱雀がぶんぶん首をふるので、紫はおかしくて笑った。

心配症な方

人よりやさしいんだろうと思う。

「宮さまは誠実でしたわ。死んでお詫びしますとおっしゃいました。

でもそれだけはやめてとお止めしたんですの。母のない寂しさは、

私もよく存じておりますから」

紫は笑って、すこし遠くを見た。

「あの方はとても大人でしたよ。男女のことにはうとかったかもしれま

せんけど、心はとても大人で。人を思いやるやさしさがあった。外見

だけですぐ子ども扱いするのは、男の方の悪い癖だと思いますわ」

そう言ってしまってから、あとはやさしく笑った。

「私の病は寿命なんです。誰のせいでもない。だからどうか、お気に

なさらないで下さい」

「でも、まだそんなお若いのに」

「だって、この方のお世話って本当大変なんですもの。わがままで」

「えっ、俺?」

急に自分を出されて、光は目をぱちくりさせた。

「ええ。すごい苦労をさせられましたの。今だって、出家したいと言っ

てもちっとも許してくださらないし。酷いでしょう?」

朱雀に笑うと、少し疲れたのか、光の腕にもたれかかった。

「朱雀さまはご立派ですわ。お嬢様の出家もお認めになって、ご一緒

に祈って。よかったら私たちのことも祈っていただけませんか?特に、

この人のことを。また会えるか、とても心配ですの。とっても罪深い人

だから」

紫の笑顔につられて、朱雀も何とか微笑を作りながら

心の中はつらさでいっぱいだった。

ああ紫さんは、もう自分の最期を予期しているんだ。

だから俺にこんなことを…

なんとかなんとか、涙をこらえて帰ると

仏前に座りながら、朱雀はぽろぽろ泣いた。

どうか、どうかお願いです。紫さんが死なないように。

俺の命にかえても生きながらえさせたいと思った

だって、何も悪くない人なのに

むしろ誰よりやさしく、許してくれた人なのに。

もう死んでしまうなんてつらすぎるよ

どうか、もうすこしだけ。

朱雀が深く祈る。

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