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朱雀と弟  作者:
第四部  借り物を返す旅路のはじまりにさしのべらる手二度と離たず
170/175

37-10 覚悟しろ

「雁…?」

ふっと起きると、もう暁だった。

東の空が青く光る。

夕霧は不安になって起きた。そばに雁がいない。

よろよろ起き上がると、御簾のそばに雁は座っていた。

もう格子をあげさせて、明けていく空を見ている。

「風邪ひくよ」

後ろから衣をかけてやると、雁はびくりとふり向いた。

「びっくりした。もう起きたの?」

「うん」

雁を後ろから抱きしめて、頬と頬ををすりよせる。

雁の頬は朝の風を受けてやはり冷たかった。

それを温めるように抱きしめながら

ゆっくり昨日のことを思い出す。

「ごめん、寝ちゃったんだな、俺」

「ごめんじゃないよ。二宮さんに失礼すぎ」

雁は苦笑しつつ、でもこんな良人でよかったと思った。

こんな恋の下手な人だから、不器用な人だからこそ

私は全身全霊で愛せる。

「すきだよ」

めったに言わないから好きだった。

その声、その息

ささやく音も、すべてが好き。

「うん」

うなずきながら、そっと抱きしめる。


父親が宮さまを貰うから自分もほしくなったの?

帝の子も例外ではなかった

女なら

保護者さえいなくなれば

狙って襲って食べてもいい

これが幸せなら

女って寂しいものね

夕霧はそうはしなかった

頭固いくせにちっとも常識を守らない

この時代の、他の誰とも違う。

「高貴な方が現れたとか。奥様も大変ですね。私の気持ち

少しはお分かりになったでしょう」

藤典侍という女官から文が届いた

夕霧の子を四人産んだ人。

「ご心配ありがとう」

雁は笑って返事を書いた。

「私あんたのこと許したわけじゃないから。

今は子どもが小さいから黙ってやってるだけよ。

うちの良人に手出すなんて、どうなるかわかってんだろうな?

調子のんなよ。覚悟しろ」

さすが鬼嫁

平安でもテンションは変らない。

ただ夕霧にだけはやさしくした

雁子どものしつけはしっかりしてるが、良人には甘い。甘えたい。

大好きなので仕方ない。

「ねえ、今度良い美容液がでるの。取り寄せていい?」

「ん?いいよ」

夕霧は軽くOKした。

いつも頑張ってくれてる妻へのごほうび

物は惜しんだことがない。

「ありがと」

雁は微笑んで、美容と美白にさらなる磨きをかけることを誓った。

これから先、ふたりが恋仲になることはあるのかしら。

私や子どもたちが捨てられること。

そうならないように、最善を尽くさなきゃね。

いつも笑顔で完全武装。常時臨戦態勢。

女はつねに女と競い合うことで、その美を保っている。

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