6-5 まさかの伏兵
「小さい頃からお前ばかり見て思い出されるからだろうか、とてもよく
似ているね。ごく小さい頃は、みなこのようなものだろうか」
光は、さっと血の気がひく気がした。
気づいてる、のか…?
胸がつと塞がる。
子はたしかに似ていた
光の美貌を余すところなく受け継いでいる。
これは傍ら痛いと思った
藤壺もつらくて、春なのに冷や汗をかいている。
その子は、俺の子なんです。
光は、自分から言おうかと思った。
言えばすべて壊れるけど、俺と彼女は救われる。
隠すことから解放されて、同じ罪人として一緒にいられる。
死んだとしてもかまわない、ふたり一緒なら。
光の脳裏は、しあわせな囚人の妄想でいっぱいだった
お互い永久に離されて、墓も建たない無残な死に方をするなど、
夢にも思わない。
結局甘えているに過ぎないようだった
父の愛は自分たちを殺しはしないと、心のどこかで光は思っていた。
「父上」
光は息を吸い、言いかけた。
ところへ
「父上、遅れて申し訳ありません」
急ぐ息で、朱雀がそっと入ってきた。
「遅かったじゃないか、朱雀。どうだ、この子の美しさは」
「本当にお美しいですね、光にそっくりだ」
…え?!
光と藤壺は「えっ?」と思った。
まさかの伏兵登場か?
朱雀はあどけない笑顔で、父の自慢話をきいている。
「本当光に似てかしこそう。お母上の血筋なんですかね」
「おいおい、それじゃ私に似たら賢くないと言ってるみたいじゃないか」
「いえ、そういう意味じゃないんですよ」
「ははは…そう慌てるな。わかってるよ、自分は父親似だと言いたい
んだろう?私に似て、できが悪いと」
「いえ、そんな…めっそうもない」
「まあいい、気の毒だが仕方ないな。じっさいお前が一番私に似てる
ようだから」
父は上機嫌で笑った。
若君の可愛さに、よろづの罪も許すらしい。
朱雀も微笑しながら、父に抱かれた赤子を見守った。
光が、まばたきする。
「兄貴、ちょっと」
光は先に退出して朱雀を待ち伏せすると、その袖を強く引いた。
「ん?」
朱雀が何心なく首をかしげる。
「どういうこと?知ってたの」
「何が?」
朱雀はきょとんとしていた。全方向的に無防備。
光は兄を塗籠に連れこむと、戸を閉めた。
深く、息をすう。
………
「ええええええ?!」
「ばか、声でかいよ」
口をふさがれて、朱雀はもごもごした。すこし息をしずめる。
「ごめん、でもそれ本当なの?」
「それはこっちの台詞だよ。本気で思ってんの?母似だなんて」
「だって藤壺さんは光のお母上に似てるわけだから、その子も似る
のかと思って」
「お気楽だな」
全人類を朱雀化したく思った。
なんと御しやすい人だろう。
「みんな知ってるの?」
「なわけないだろ。俺と彼女と手引の命婦、三人だけだよ」
「そう…」
朱雀はあまりの告白に失神しそうだった。
なんという、つらい、難しい恋だろう。
「今日から四人だね、兄貴を入れて。俺たちもいよいよ四天王にな
った」
「え?」
いきなり四天王にされて、朱雀はすこし戸惑った。
「これから俺たちは、共通の目的に向かわなきゃならない」
光の目がひかる。
「彼女と息子を守る、これが俺たちの使命だ。兄貴も協力してくれ
るね」
「はい」
朱雀はこくんとうなずいた。それはたしかにそうだ。
なんとしても、ふたりを守らなきゃならない。
「よし、ありがとう。兄貴に言ってよかったよ」
光は塗籠の戸を開けて、にこっと笑った。
朱雀も笑って、謎がひとつ解けた気がした。
「それであんな美しかったんだね、舞のとき。紅葉のせいか、目が
赤く見えたよ」
燃えるように輝いていたと思った。
光はふりむくと
「俺は鬼だからね。ときおり目が赤く光るんだよ」
そういって笑った。
自分を鬼に擬するほど、光の心はつらく、つよくあるのか…
弟の笑顔を見送りながら、朱雀は切なく、痛ましく思った。




