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朱雀と弟  作者:
第四部  借り物を返す旅路のはじまりにさしのべらる手二度と離たず
169/175

37-9 楽しい夢

女二宮は、落ち着いてやさしそうな方だった。

さすが朱雀院の娘、落ち着いた中にも漂う気品が感じられる。

夕霧は、彼女をはっきり見るのは初めてだった

もちろん、妻の雁も。

「はじめまして」

女二人は表面上にこやかに、貴女らしく挨拶した。

「ごめんなさい、お呼び立てして」

「いえいえ。私も一度お会いしたいと思っていましたの、一條の

お姉さまに」

雁の言い方にとげはなかった。

それはいろんな意味で本当でもあった

部屋には、夕霧と雁と二宮と、その隣にひとつ

柏木の膳が設けられている。

その杯に酒をついでやりながら、夕霧は柏木のことを思った。

雁との結婚も、柏木が仲人してくれたんだよな

ここに柏木がいてくれたら。

俺たちは普通の親戚として、仲良く付き合えていたことだろう。

従兄弟同士遊ばせて、俺は笛を、柏木は和琴を、蹴鞠を

その子たちに教えて。

楽しく過ごしたことだろう。

そんな別の未来を想像して、夕霧がそっと微笑む。

「私はここに一人で住もうと思います」

二宮はそんな夕霧を眺めながら、主に雁と話した。

「どなたか、待ってる方がいらっしゃるんですか」

雁が、こちらもやはり夕霧を見つめながら

世間話ふうにきく。

「今はまだわかりませんけれど。そんな歳でもないですから」

「ご謙遜を」

二人は笑って互いを探りあった。

雁のガードは固い。

積み上げた日々、子どもたちの重さ

そういうものにどっしりと支えられた、不動の夫人。

二宮は別にその座を奪うつもりはなかった

どちらかというと、夕霧より雁に会いたかった

この幸せな人に会って、自分の決意を固めたい。

「お子さんは何人いらっしゃるんですか?」

「今八人でしょうか。もっと増えるかもしれませんけど」

「さぞにぎやかでしょうね」

「ええ。おかげで良人に浮気されて。男って勝手ですよね、子を

なしておきながら、それがうるさいと家に寄り付かなくなって」

「そんなこと」

でかかった言葉を、雁の睨みに瞬殺されて

夕霧はしゅんと黙った。

それがあまりに仲良し夫婦で、二宮が思わずくすりと笑う。


「ありがとうございます、夢を見させていただいて。楽しい夢で

した」

二宮は今までのことを少しずつ、記憶の棚にしまった。

これは夢なんだってことが、幸せな幻想なんだってことが

胸の奥に迫る。

「これからは、奥様ともお付き合いさせていただいてよろしい

ですか?良人も母も亡くして、寂しいものですから」

「私などでよければ、喜んで」

雁も胸に迫るものを感じながら、そっとうなずいた。

この人は彼をあきらめようとしてる。そう、思う。

だから私を呼んだんだと思った

私をよんで、私の前で言うことで

その決意をゆるぎないものにしようとしてる。

だけど、それは身を切るような行為だよ

雁の目頭がじんと熱くなった

二宮もすこし、泣いている。

でも常に口角をあげることを忘れなかった

貴女は微笑

どんなときも微笑を絶やさないのが、女の意地ってもんだ。

二人は負けないように微笑みあった

お互い、敵もさるものと思っている。

「柏木ー」

夕霧はすっかり酔ってしまって、柏木の膳を抱きしめるように

抱えた。

彼に注いだ酒も自分で飲むものだから

酔いが二倍、早く回っている。

「あーあ、こんなに飲んじゃって。弱いくせに」

雁は手慣れた様子で良人を寝かせると、帯をゆるめ

楽な姿勢をとらせた。

こっちはかなり重要な話してんのに、夕霧はすやすや

もう寝始めている。

わざとかしら?

ならなかなか策士だなと思うのだが、残念ながら素のようだった。

腹にしまっていた極度の緊張が、酒で一気にとかされ

まったく無防備になってしまったらしい。

義理の姉妹は、すうすう眠る男の顔をながめた。

うちの子たちと同じ。本当に寝顔って成長しないよな。

つんつんつつくとむにゃむにゃするので、

二人は思わず顔を見あわせて笑った。

今日の和解も、お兄ちゃんのおかげかしら。

父と夕霧の間をとりもってくれた兄を、雁は思った。

そのおかげで結婚できたことも。

本当に、本当に感謝してる。

「今日はありがとうございました」

雁は義姉に礼を言った。

「また来てもいいですか?今度は兄の話をしに」

「はい、いつでも」

二宮も微笑んで手をふる。

雁は夜が更ける前に帰った。もちろん良人も連れて。

雪もよいの空に銀色の月が

兄の笑顔みたいに、にっこりかかっている。

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