37-7 死に給ひね
「何事いふぞ。おいらかに死に給ひね。まろも死なん。見れば、憎し。
聞けば、愛敬なし。見捨てて死なんは、うしろめたし」*
……
平安の鬼嫁雁は、可愛らしい人だった。
「まあ、このくらい思いつめてたってことだよね」
雁はこほんとひとつ咳をすると、正座して夕霧と向かい合った。
「で、どうするの?宮さまのことは」
「うん」
女二宮は母の葬儀後、いつまでも小野には住めないからというので
もとの一條邸に戻ってきていた。
そこに夕霧が住みつき顔で待ち構えていて、家の者たちも味方につけ
憐れな宮を庇護する形でちゃっかり結婚してしまうというのが
大方の筋のようだが。
夕霧もちろん、それはしない。
というか、すごい筋だなこれ
宮さまに対する、これが源氏の礼儀か。
二宮さんなんて怒って、塗籠に内側から鍵かけて寝てるし
どんだけ嫌われてんだよ俺
夕霧思わず嘆息する。
「彼女にまた会うの?」
「わからない。今は連絡とってないから」
「都に戻ったってことは、いよいよ夕くんと一緒になりたいってことじゃ
ないの?」
「それはないと思うけどなあ」
見えすいた嘘ではなかった。
夕霧には、彼女の意図がよくわからない。
一條に帰ってきたってことは、出家は思いとどまったのかな?
また別の恋を探そうという気にでもなってくれたのだろうか。
そうだとうれしいのだけど。
心配だけど、かまわないでと言われてる手前、文もできない。
文くらいすりゃいいのに。本当気の利かないひと。
雁はそう思いながらも、自分のためにはその方が都合がいいので
もちろん黙っている。
「私は別にいいよ、二人が結婚しても」
「えっ?!」
「もちろん夕くんは渡さないけどね。形だけなら許す。要するに経済
援助したいわけでしょ?それは許すけど、夕くんは渡さない」
雁がにやりと笑った。
何その上から目線
雁完全に主導権を握ってる形だった
本妻の貫禄十分な威厳で笑う。
「援助するだけなら、むしろ結婚しないよ」
夕霧は寂しそうに苦笑した。
だってそうだろ?
結婚するかわりに養うんじゃ
体と引き換えに金出すようなもんじゃないか。
それはあまりにも失礼というか、違う気がする。
「じゃあ純粋に養ってあげるだけってこと?それも微妙じゃない?
宮さまに言い寄ってくる人は、夕くんのことどう思えばいいわけ?
夕くんが許して結婚とかさせてあげるわけ」
「うーん…」
それもそうだよなあ
俺彼女の父ってわけでもないのにと思って
夕霧も真摯に困ってしまった。
結婚してないのに養うだけの関係なんて
はたから見ても紛らわしいか。
もっと目立たないように、うまくできないものかな
彼女のためになるように。
夕霧悩む。
そんな二者協議の最中に、噂の二宮から文が届いた。
「夕霧様、奥様へ」
…?
宛名連名の文に雁もびっくりして、夕霧と顔を見合わせた。
とりあえず開いて、一緒にのぞきこむ。




