37-4 壊れそう
御息所の急な訃報をきいて
夕霧は思わず弔問した
「まだ早いです」
「もっと落ち着いてから」
そういう諌めもあったけどきいていられなかった
柏木に続いて、お母さんまで失うなんて。
二宮さんはどれだけ悲嘆にくれていることだろう。
「あら…来ちゃったんですの」
女二宮は苦笑して言った。
「奥様が嫌がるでしょうに」
「すみません…俺が、俺の文が遅かったから」
それが御息所を苦しめたのではないかと夕霧は思った
「母はもともと悪かったんですよ。あなたのせいじゃない」
気になさらないで、と二宮は笑った。
「それから、今日はもう帰っていただけますか。まだばたばた
していますし、身内だけで悲しみたいので」
今日の二宮はすこし変だった
いつもと違う
いつもよりずっとそっけない。
それがわざとだということに気づけるほど、夕霧は鋭くなかった
やっぱり俺のせいなんだと悲しく思う。
「本当にすみません…」
「謝っても、人はかえりませんわ」
二宮は涙のあとをきゅっとふくと、少し笑った。
「親が死んだくらいで私の所へ来られては、がっかりしますわ。
あなたは何があっても妻子を大切にして下さる方でなければ。
私の理想が崩れます」
そう言って、笑う。
「だからもう、お帰りになって」
「でも…」
「いいから。お願いだから」
二宮は泣いていた
微笑みながら、ぽろぽろ泣いている。
「これ以上やさしくされたら、私ダメなんです。壊れちゃいそう。
だからおねがい、今日は帰って…」
その悲鳴が、夕霧の胸を撃ちぬいた
澄んだ目を開いたまま、そっと黙って席を立つ。




