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朱雀と弟  作者:
第四部  借り物を返す旅路のはじまりにさしのべらる手二度と離たず
162/175

37-2 雁の超展開

「あ、ちょっと返して」

見ようとした文をぱっと取られて、夕霧はあわてて手をのばした。

「それ御息所さんのなんだから。大事な文だから」

「うそばっかり」

雁はふふんと笑って、文をひらひらさせる。

「浮気はダメってゆったでしょ」

「だからそんなんじゃないんだって」

「嘘つき」

立ち上がろうとする夕霧の手をぎゅっとつかんで

雁は上から彼に覆いかぶさった

その口にキスをする。文がはらはら落ちる。

雁もキスが好きらしかった

ちがうよ、夕くんが好きなの。

雁の情熱は、結婚十年過ぎてもおさまらない。

「私だけって言ったでしょ?」

泣きそうに悲しむ顔が、やたら可愛かった。

「私一番じゃなきゃ嫌なの。夕くんの一番になれないなら生きてい

たくない。ねえ、殺して?他に好きな人ができるくらいなら殺して」

「ちょ…何言ってんの」

夕霧は驚いて雁を抱きしめた

こんなに思いつめていたなんて

胸がぎゅっと痛くなる。

「二宮さんはそういう人じゃないんだよ。ただの友達で」

「うそ。だってずっと通ってるじゃない」

「それは柏木を亡くしてあまり寂しそうだから、話相手に」

「でもその人は、夕くんのこと好きなんでしょ?」

見透かされ、夕霧はぐっとつまった。

「そうらしいけど、でも断って」

それでも好きだと言われた顛末を、こちらも父譲り

なんだかんだでぽろぽろこぼしてしまう。

「その人のこと、抱いたの?」

「まさか」

雁の目がきらりと光った。良人の嘘を見逃さない瞳。

「そんなことしないよ。できないし。柏木の奥さんなんだから」

「だってお兄ちゃんはもういないじゃない」

「それは、そうだけど…」

柏木のことを言われ、夕霧がしゅんと沈む。

「とにかく、その人は夕くんのこと好きなんでしょ?そんな女の所に

夕くんを行かせたくない」

「雁…」

雁の意見は当然のものだった。ぎゅっと抱きしめて離さない。

やさしいんだから。やさしすぎるんだから。

そこが好きだけど。でもダメ。

ぜったい誰にも渡さない。

「私だけを見て」

じっとうるむ瞳が夕霧の抵抗力を奪い取った。

彼は男だから、もちろん嫌なら拒否することはたやすいのだが

女に手をあげるとか拒むとか、そういうことができるたちではない。

姉さん女房の雁はしっかり者だし、夕霧より強い所もあるのだが

それでも夕霧

女は守ってやらなきゃという固定観念をいまだに持っていた。

押し倒されながら、狭い部屋で、几帳の端に頭をぶつけた。

痛…

思いながらも、よりかかってくる雁を受け止めつつ

その想いも熱もこぼさないよう

そっとしずかに抱きよせる。


「ママー」

そんな雁の裾を、四君がつんつんひっぱった。

「ん?」

雁がすっとお母さんの顔に戻る。

「どうしたの」

衣の乱れを直すのも早かった。

話をきいてやって、やさしく追い返す。

「ひや…」

夕霧は、危ない所を救われたというか

ちょうどいい所を邪魔されたというか

なんとも言えない恥ずかしそうな顔で半身を起こした。

そうだ、ここお子さまいるんだから

こんなみだらなことは慎まなくちゃいけない。

夕霧良識派

例のクールな頭に戻って、少し髪をかく。

「藤典侍さんに四人も生ませたんですってね」

「え?!」

急に話を戻されて

というか、むしろ超展開に持っていかれて

夕霧はただ無防備にたじろいだ。

「どういうこと?もはや浮気じゃないよね」

「だからそれはその、設定で」

夕霧たじたじしつつ

「ごめんなさい」

小さく謝る。

「ダメ。許さない」

雁は冷たく笑うと、むんと夕霧に胸を押しつけて迫った。

なんか、苦しい…

雁胸大きくなってない?

子ども生むたび胸が育ってる気はしてたが

なんかもう、巨乳の域。

「うー」

きゅうきゅう押しつけられ、夕霧が苦しそうにじたばたした。

「あなたは私のものだってこと、まだわかってないんだね?いいよ

ゆっくり教えてあげるから。わかるまで、何度でも」

「でも雁、ここじゃ」

夕霧は顔を真っ赤にして、それでもお父さんらしい配慮を見せた。

「大丈夫だよ、しずかにやれば。私の口ずっとふさいでてね。

バレたくなければ」

雁は笑って夕霧の上に乗った。

はむはむ、すりすり、ゆっくり丁寧に

雁の知らない所がないか

他の女に変えられた所がないかチェックする。

「私だけを愛して。子どもたちのためにも」

すっと微笑むその寂しさが、夕霧の胸をうつのだった。

そうだ、雁にとってもここしか家はないんだった

雁を、雁たちを、路頭に迷わせるわけにはいかない。

「ずっと、君だけが一番だよ」

澄んだ瞳で約束して、ぎゅっと抱き寄せた。

雁その裏でにやりと笑うが、夕霧にはそんな高等技能

見抜けるはずもない。

おどされ泣かれ、そのすべてがいとしくて

愛する女をつい抱いてしまう。

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