37-1 むくわれない恋
三十七.夕霧
「あなたがすきです」
「えっ」
夕霧は一瞬狼狽した。
「でも俺には雁と子どもが」
断るのも早かった。0.3秒くらい。
「いいんです。そういうところがすきですから」
女二宮は切なく微笑んだ。
「あなたのその、ご家族を大切になさるところを何より素敵だと思い
ますから。一言想いを伝えたかっただけですから。気になさらないで」
「……」
そんなこと言われてもと思って、夕霧は沈黙した。
好きだと言われ、断って、そこを好きだと言われて。
この先何ができるだろう。
女二宮は、困る夕霧の姿をいとおしく思った。
この人のこの、迷ったり悩んだりするやさしさ、思いやり
妻を想う心の深さを、私は何より愛している。
「私が好きになる人はいつも、私を好きにはならない。でも、そう
いうところが好きなんです、私なんかを相手にしないところが。
大丈夫です、慣れてますから」
自分の恋は間違っているらしいと彼女も早くから気づいていた
愛されて、人は幸せになるのよ。
母もそう言っている。
柏木はどのくらい自分を愛してくれていたかなと
二宮はぼんやり試算してみた
百パーセントのうち、どのくらい…
いやだめか
誠実な人だもの、百二十パーセントの情熱で妹を
妹だけを想っていただろう。
姉二宮は淡く苦笑した
そういうところも大好きだけど。
それは永遠に、むくわれぬ恋。




