35-4 人生の博士課程
笛竹を吹きよる風のことならば末のよながき音に伝へなん*
夕霧ごめん、それお前にじゃないんだ。生い先長いあの子に伝えて
久々に会ってそれかよ。
夕霧は思わずつっこみそうに苦笑してしまった。
柏木はただ、在りし日の袿姿で
横笛を手に取り笑っている。
「わかってるよ、薫にでしょ」
答えると、にっこりうなずいて消えた。
まったくもう、成仏できてるのか?あいつは
この世とあの世は案外近いのかもしれない。
何か思し召しと違うことをすると、すぐ出てきてくれるから便利だ。
正直うれしかった
動いてしゃべる柏木が見られて、夕霧けっこうごきげん。
夕霧を起こしたのは赤ん坊の泣き声だった。
赤ちゃん夜泣きで困ったなー
赤ちゃんてなんで夜泣くんだろ?
雁はお母さん業にも慣れていて、灯りをともし
赤ん坊をよしよしとあやす。
少しはだけた胸元がきれいだった。
お母さんのおっぱいって、本当白いよな…
夕霧二十八歳、真夜中の夜泣きにも学びを欠かさない。
「ごめん、起こしちゃった?」
雁はこちらを向くと、すまなそうに言った。
「この子あっちにつれてくね。うるさいから」
「いいよ」
夕霧は雁を引きとめると、赤ちゃんとその口元をじっと見つめた。
「俺も飲めるかな?おっぱい」
ごく真面目にきいた。純粋な研究者の瞳。
「ばか!はよ寝ろ」
「痛…」
雁母に殴られ、夕霧しぶしぶ寝床に戻った。
何もぶつことないのに…
どんな味がするのかと思って、少し興味がわいたのだった。
だって赤ちゃんの頃って、味覚えてないしさ。
しゅんとなっておとなしく寝つつ
夕霧大将そろそろ人生の博士課程
まだまだ探究心は尽きない。




