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朱雀と弟  作者:
第四部  借り物を返す旅路のはじまりにさしのべらる手二度と離たず
152/175

35-1 こんなのがあんなの

三十五.横笛

「あーあ、お前はまた思いきったことを言っちゃって。大体開口一番

『俺はあなたに恋しない』って失礼すぎるだろ。相手も『何?こいつ』

って思ってるよ。もうちょっと空気よめよ空気」

「こういうことは始めにはっきりさせといた方がいいんだよ」

「はっきりって。どうなるかわからないのが男女の仲でしょうが」

「どうにもならねえよ。彼女俺のこと嫌いだし。本文中でもずっとそうだし」

「そう見せてるだけかもしれないだろ?嫌だ嫌だと言いながら抱かれる

ことに快感おぼえる動物なんだよ、女ってのは」

「そういう認識してるから歪んでるって言われんだろ」

「まあ、たしかに」

光は苦笑して頬をかいた。

そこは反省してる。たぶん直せないけど。

「でもどうすんだよ、今後の展開。お前、自分の名のついた章を棒に

ふるつもりか」

「いらん、あんな章」

夕霧にべもなかった。

彼は早く大人になりすぎたせいか、万年反抗期の気があって

二十八歳の今でも元気に父に反抗している。

もちろん台本にも従わない。

「俺は俺のやり方でやる」

大人らしい目をして、のしのし行ってしまう。

「相変わらずだな」

光はくすりと笑うと、夕霧の背を見えなくなるまで見送った。

大丈夫かな、あいつ…

つよがる姿も可愛いんだけど

ちゃんと心を許して泣ける胸を持ってないと

男はつらいよ

そういう相手がいるといいんだが、と思う。


 世をわかれ入りなむ道はおくるとも同じところを君も尋ねよ*

仏の道は遠いけど、ともに頑張ろうね。

朱雀は出家した三宮に文を送った。

彼は兄としては悪くないのだが、親としてはいまいちのようで

自分の子どもたちも、孫のように無心に可愛がってしまうところがある。

出家して俗世を離れ、一心に励まなきゃいけないところ

美味しそうな筍とか生えてると、初夏の味覚

ついかわいい娘と孫に送ってしまうのだった。

「田舎のじいちゃんか」

光は思わず苦笑した。

まあそんな年だよな、俺たちも。

その筍のゆでたのを、まだ幼い薫がはむはむやっていた。

「え、もう食えるの?」

光は稚児というものをよく知らないので、興味津々

幼い薫を観察している。

筍の罍子に、なにとも知らず立ちよりて、いとあわただしう、とり散らして、

食ひかなぐりなどし給へば*―

その一心さが可愛くて、思わず抱き上げた。

「この子かなり可愛いね。おじいちゃん似かな」

そっと、その頬を撫でる。

柏木を思わせることはたしかなのだが、そこに一段

清らかさというか、気品がただよっていた。

たしかに兄貴似かな。なんか俺に似てなくもないし。

いろんな人の成分混じってるな

ちょっとうれしい。

薫はそんな光を気にせず

筍を、つとにぎり持ちて、雫もよよと、食ひぬらし*ていた。

「すごい執着だな。どんだけ腹減ってんの」

光は苦笑して、筍から薫を離した。

薫はまったく気にせず、にこにこしながら這いまわっている。

かわいいなー

光五十を目前にして、はじめて稚児の可愛さというものに触れた。

「この人の出でものし給ふべき契りにて、さる、おもひのほかの事も、

あるにこそはありけめ。逃れ難かなるわざぞかし」*

本当だよ

柏木よくやった、と言いたい。

しかし、夕霧や冷泉さんもこんなんだったのかなー

大きくなってからしかまともに会ったことがないので

ちょっと想像できなかった。

今じゃあんなにでかくなっちゃって

ふたりとも、いろんな意味で俺を超えてるし。

こんなのがあんなのになっちゃうなんて

いのちのふしぎ、予想だにできないよ。

薫をなでなでしつつ

「ずっとこのままでもいいよー」

などと、気ままなことを言っていた。

兄朱雀に負けないくらい、光もおじいちゃん気分である。

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