34-1 そっと、ずっと
三十四.柏木
「本当に、申し訳ありませんでした」
女三宮には男気があった。
きれいな少年みたい
服に隠れそうなほどあえかな姿で
それでも面と向かって
じっと、頭を下げる。
「なかなか大胆なことをするね」
光は、柏木と三宮の間がそれほど盛り上がっていたのかと思って
うれしくも、少しうらやましくも思った。
「不義密通はすごい罪だって知ってた?俺の中で」
「はい…」
三宮が、硬くなってうなずく。
「君は文を落さなかったね」
三宮が隠し忘れた文を光が見つけて
相手は柏木と確信する筋のはずだった。
ところがその文が、いくら探しても見つからない。
「ちゃんと隠したの?」
「はい。大切な文なので」
光は、がんばって相手を隠そうとする三宮を
まぶしく、いとおしく思った。
このくらいきっちり隠しとおしてくれると男もありがたいよな
良人の俺にもありがたい。
「そう。ここまで真剣に想ってもらえれば、柏木もさぞ本望だろうね」
女がさっと青ざめるので、光は苦笑した。
「大丈夫、別に責めたりしないよ。知ってたんだ、すべて」
「…」
三宮の目が、そっとうるむ。
「今は子どものことだけを考えて。体を大切にね。君たちのことは
俺が責任もって守るから」
「すみません…」
涙声で謝るので、こっちまで泣きそうになった。
「大人になったね」
いい大人になったと思う。
少女の頃より、もっとずっと美しくなったと思った
美しく、女らしく、たくましく。
「柏木の快復を、祈ろう?」
「はい」
三宮はつよくうなずくと、ふくらんだお腹を抱いた。
どうか、生きて。
祈りにも似た叫び。
若いっていいな…
光はまぶしそうに三宮を見つめた。
さらさら、きらきらしてる。
夜の街を、手をひいて走って
そんなことできるだろうか
昔の俺にはできなかっただろうと思った
もちろん、今の俺にも。
美しかった
お互い惹かれあう恋というものをあまりにもしなさすぎたと
光は反省していた
無理やり引いて、引かれて、引きずりまわして
泣かせてばかりの自分
恋って本当はこういうものなんだってこと、教えられた気がする。
さしだす手と、こたえる手
それが、すべて。
「いいなあ」
一心に祈る三宮を見て、光は軽い嫉妬すら感じた
そんなにつよく、深く愛されることに。
俺だって愛していたよ
でもそれ以上に、愛されたかった。
ただひとりの人に、そっと、ずっと愛されることを
それだけを望んできた自分だったと思った。




