33-13 俺の親友
「親父!」
夕霧は珍しく全力で駆けてきた。
「柏木は?」
「帰ったよ。すこし具合悪そうだったから、酒はすすめなかった」
光は淡く笑った
柏木のまっすぐな瞳が、まだ目の前に見える。
「具合悪いって、あんたまさか」
「そうそう、きっちり睨んでやったよ。台本どおりにな」
「てめえ」
夕霧は思わず父につかみかかった。
「なんだよ。睨んだだけで、人は死ぬのか」
光も負けじとにらみ返す。
重い沈黙が続いた。
「冗談だよ。そう熱くなるなって」
今日の光はさすがに元気がなかった
にやりと笑って、夕霧の肩をぽんとたたく。
夕霧は父を離すと、それでもきつい目で見つつ低く問うた。
「柏木、悪いのか」
「どうだろう。すこし沈んでただけかもしれないな。俺は医者じゃ
ないから、詳しいことはわからない」
「今すぐどうにかなるわけじゃないんだな」
「そう願うがな」
夕霧はきゅっと口を結んだ。
俺があの日、もっとしっかり見張っておけば。
「うぬぼれるな」
光はその後悔を見透かしたように鋭く言った。
「お前がどんな邪魔をしようと彼らは結ばれたよ。これも運命だ」
「えらそうに言うな」
夕霧は悔しくて、つい反発した。
「柏木は俺の親友なんだ。ずっと一緒にすごしてきた。あんたとい
た時間より、あいつとすごした時間のほうがはるかに長いんだ。
それだけは、覚えておいてもらう!」
はっきり言うと、ばたんと出て行ってしまった。
元気だねえ…
光が苦笑する。
わかってるよ、そんなことは。
光だって願っていた
柏木の快復を。長命を。
それで歴史が変わってもいいと思った
父母がいることで、子が寂しい思いをしなくてすむのなら。
寂しい歴史など、作り変えていけばいい。




