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朱雀と弟  作者:
第四部  借り物を返す旅路のはじまりにさしのべらる手二度と離たず
143/175

33-9 月下の街

「よし、今日だな」

月のきれいな晩

夕霧は六條院にひそんで待っていた。

三宮さんの寝所に、そっと近づく。

先に起こして逃がしてしまおうと思っていた

ところが

「何やってんだ、お前」

中にいたのは小侍従で

「だって、私が手引したと責められちゃかないませんから。

こうして身代りで伏せていたんです」

きょとんとして言う。

「宮さまは?」

「奥の塗籠に」

「えっ?」

そこは寝室ではなく物置に使っている部屋だった。

「そんなとこに皇女を入れる奴があるか」

「だって、絶対見つからない場所をと思って」

絶対見つからない場所…?

夕霧はいやな予感がした。

走って塗籠に向かう。

「宮さま!」

戸は最初から薄く開いていた

中にはもう、誰もいない。


「今夜七時、塗籠で」

日ノ本広しと言えども、物置で待ち合わせした男女は

彼らが初めてだったかもしれない。

三宮は塗籠で、息をひそめて待っていた。

真っ暗な闇

時もわからなかった

ただ、来るかもしれない人のことを光にして待つ。

ぎい…

膝を抱えた頬に、そっと薄明かりがさした

誰かが、手をのばす。

「宮さま」

三宮は静かだった

静かに息をすうと、その手をそっと握った。


柏木は、姫君をうまく隠しながら六條院を抜けた。

もともと光、紫が移ってひとが少ない

残った門番もだれている

だから入れたんだと思った

警備の目を避け、そっと抜け出す。

「足、痛くないですか?」

貴女に徒歩はきついかなと思った。

「平気」

彼女がそっと笑う。

夜の都は人がいなかった

大路はまだしもだが、小路は人がいない。

四月十余日の月が、ふたりの道を、白くぼんやり照らす。

「どこに行きますの?」

彼女はきゅっと柏木の袖をつかんだ。

やはり少し怖い

夜歩きなんて、はじめて。

柏木はふふふと笑うと

「いいとこですよ」

そういって、姫君の手をとり駆けだした。

「あっ」

三宮が思わず転びそうになる。

「衣の端を持って。そう、ゆっくりでいいよ」

重い飾りは脱ぎ捨ててしまっていた

影にひそんで、人をやり過ごしながら進む。

たたた、たたたっとふたりの足音が響いた

月下の街に、ふたりだけ。

柏木が揺れる

揺れながら笑って

姫君の手を引いて駆けた

彼女の裾が、髪が揺れて

時折目が合って、ふたり、ほほえみあう。

楽しかった

ずっとずっと駆けていたいように思った。


羅城門までそれほど距離はなかった。

柏木は都を出ようとしていた

徒歩で。しかも姫つき。

外の友だちに頼んでおいた荷車にそっともぐりこんだ

菰の下でどきどき、息をひそめて

「なんだ?時間外だぞ」

門番は眉をひそめたが

「よし、行け」

がらがら通るふたりの後ろで、門が閉まった。

「でてきちゃった」

「ふふふ」

ふたりおかしくて、くすくす笑った。

荷車の友だちにお礼を言って、春の野道にそっと

ふたり、降り立つ。

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