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朱雀と弟  作者:
第四部  借り物を返す旅路のはじまりにさしのべらる手二度と離たず
142/175

33-8 歴史を変えて

「むうさん!」

「むう!」

紫は華やかな女楽の後、にわかに発病した。

紫の重病、二條院療養をききつけて

末摘花、花散里が急いで駆けつける。

光のいない折を見計らって、そっと枕元に近寄った。

「大丈夫なの?」

「大したことないんですよ。あの人が大げさに騒ぐから」

それより「むう」と呼ばれたことに紫は苦笑した。

「お大事になさって下さいね」

花散里が心配そうに見つめる。

末摘花は、心臓にいい薬とか肝臓にいい薬とか

体内見えないから、とにかく体によさそうなものを

寄せ集めて持ってくる。

「ちょっと。何でも飲ませりゃいいってもんじゃないでしょ。

薬には飲み合わせってもんが…」

夕霧が止めるのに、末摘花まったく聞いてない。

「むう、病は気からだよ。気を強く持って。三宮さんに負けないで」

「ここにずっと住めば独占できますわ」

「いや、宮さまのせいじゃないんですよ。ちょっとした更年期で」

「嘘ばっかいって。まだまだ若いじゃん」

「そうですわ、二十代みたいに見えます」

「何使ってんの?化粧水」

「美容液とパックは?」

「あら、特に何もしてないんですよ」

「またまたー。隠してないで教えてよ」

「ふふふ」

「人の話をきけ」

夕霧おばさんたちをなだめるのだが、中年女性つよし

枕元に居座ってなかなか話が尽きない。

「ほら、親父が来ますよ」

そうせかすと、やっと病床を離れた。

「お大事に」

「また来るね!」

そそくさ向こうの方から出て行く。

それと入れ替わるように、主の光が御簾の内に現れた。

「ありがと」

見張り番の夕霧に目配せして、紫の枕元に座る。

夕霧はそっと部屋をでた。

紫の容体は、決して軽くない。


「そろそろですね」

「ああ」

光はあまり興味ないようだった。

六條邸にはひとけがない

紫の病が、女房従者も皆引き連れた形となって

警備も手薄だった

今ならやれる。

俺が柏木なら、そう思うだろう。

「お前本当にやる気なの?」

光は呆れ顔で、やる気の息子を眺めた。

「垣間見防止作戦だって効果なかったんだろ。柏木は彼女を

見てる。見て、恋してる」

おそらく間違いないだろうと思った

そういう隠れた恋のノウハウに関しては

光のほうが一枚も二枚も上手である。

どんなつらい物思いをするかも、およそ察しがつく。

「忍びこむほど好きなら、もう好きにさせてやれよ」

「俺だってそうさせてやりたいけど…仕方ないだろ。どんな恋も

命にはかえられない」

「そうかな」

「そうさ。残された女はどうなる?子どもとふたり残されて、それ

で幸せといえるか?」

相変わらず良識派なんだから、と光は苦笑した。

夕霧みたいに真面目でアットホームな子ばかりだったら

世の中はさぞ平和で、退屈なことだろう。

「いいよ、お前の好きにしな。俺はもう手出ししない」

光は関与しないことを宣言して、すこし遠くを眺めた。

神さまは俺たちをどこへ連れてこうとしてるんだろう

どんなに途中を変えても、結末は同じなのではないか。

紫の病の重さが、光に宿世の逃れがたさを感じさせた。

ストレスだよな、俺の。

できるだけのことはしてきたつもりだった。

三宮をめとったって、彼女だけを愛して

朱雀も心配して、たえず紫を気遣っていた。

紫さんのことを一番に。

帝も三宮も、それはわかってくれている。

なあ、歴史のもしもってどこなの?

どこを変えれば紫を助けられるの?

柏木、三宮、薫と紫

繋がってるのか違うのか、よくわからなかった。

誰を応援したらいいのかも、わからない。

ただ柏木を助けたいのも事実だった。

やさしくていい奴だもの、父としてもふさわしい

夕霧でなくたって、失いたくないに決まっている。

「俺は紫のためになればいいから。紫のことだけを考えてる。お前は

柏木のことを一番に考えてやれ」

光はなるべくあっさり言った。

人の恋路を邪魔するようなことは、俺にはできない。

ただ見守るだけだと思った

逃げない傍観の先に、若者たちの明日が、開けてくるのを祈るだけ。

「わかってる」

夕霧はうなずいて席を立った。

六條院へ急ぐ。

この頃は毎晩のように六條院を見張っていた。

来るならこい、柏木。

きっと、とめてみせる。

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