33-5 言い続けて、しあわせ
「いい年して、思い切ったことを言っちゃうんですね」
「言っちゃいましたね」
「でも格好いいですわ、未来を変えるだなんて。私も言われてみたい」
玉鬘は微笑んで文を書いた。
書きながら、やっぱり蛍だなと思う。
「他の方には難しいでしょうけど、あなたならできると思いますわ。
きっと、あの子を幸せにしてあげて下さいね」
「はい、母上」
答えながら、蛍もくすくす笑う。
「何か変な感じですね、あなたのことを母だなんて」
「本当ですね」
「でもきっと幸せにします。俺なりに、心をこめて。あなたは今、
幸せですか」
その質問に手を止めることは、母の彼女には許されていなかった。
「ええ、とても。あの時あなたと一緒にならなくてよかったわ」
「ひどいなあ。でもよかった。お互いがんばりましょうね」
蛍のやさしい微笑がそっと目に浮かぶ。
すこし瞳が潤んだ。
そう、しあわせよ
しあわせだと言い続けて、人はしあわせになるの。
子どもは皆可愛かった。髭黒も父としては悪くない。
何も不足はないはずだった。
良人の昇進、子どもの成長
私はそれを見届けて、満足して死んでいくの。
それは正しい生き方だろうと思った
正しいが果して、楽しいかどうか。
私も今を変えたのかな
自分の力で、何かを選び取ったのかしら。
選んだとしたらあの時しかなかった
冷泉帝と向かいあった、あのとき。
正直最後の審判かと思うほど、恐ろしく、美しかった。
いつまでたっても色あせない、身震いするような思い出。




