33-3 眞木柱を娶りて
髭黒大将に嫁いだ玉鬘は、毎年のように子を生んでいた。
でも男の子ばかり
可愛いかしづきぐさの女の子がない。
あの眞木柱の姫君は、どうしているかな…
またなく大切にされる幸せの中で、玉鬘は絶えず
元の北の方とその子たちのことを思った。
私が追い出してしまったようなものだよね
髭黒大将は、玉鬘に次々子がうまれるのでたいそう喜んで愛し
古女房などまったく省みない。
邸にもそのまま居座っているし
玉鬘、完全に本妻の座を奪った形だった。
ひどいよな、私…
陥っても仕方のない自己嫌悪に落ちることもあった。
でも今の幸せを手放すこともできない
自分のため、子どもたちの将来のためには
私だけを愛す良人が必要だ。
せめて、お子さんたちに良縁がくるといいのだがと思った。
もちろん眞木柱らは母の実家で育てられているから
髭黒に激怒した祖父式部卿宮が
憎き玉鬘らの口出しを許すわけはないのだが。
「柏木さんなど、どうかしら」
「さあ、どうでしょうね」
相談をもちかけられても、夕霧はいまいち浮かない顔で
あいまいな返答をした。
「あいつは今、猫かしづきに忙しいですから」
「猫かしづき?」
「はい」
溺愛というほどではないが
家にいると、つい猫と話すことが増えたらしい。
「のみとりとか爪とぎとか、いろいろ世話もあるらしくて」
「ふふ…おかしな方。女の子より猫を可愛がるの?」
玉鬘は笑ったが、あながち冗談とも言えなかった。
柏木は何に対してもすぐ熱中するたちなので
猫と決めたら、今は猫しか見えない。
猫には、おもひおとしたてまつるにや、かけても、思ひ寄らぬぞ、
口惜しかりける。*
眞木柱にはまったく興味ないようなので
祖父式部卿宮もがっかりする。
「いや、眞木ちゃんと仲良くなるのはいいんだけどさ。髭黒さんの
婿になるってのが抵抗ある」
「たしかに。蛍さんより年下ですもんね、あの人」
「うん」
玉鬘の件を思い出し、蛍は不満げにうなずいた。
言い寄る前からすでにやる気ない。
「まあそういう筋書なら一応やってみるけどね。うまくいくかどうか」
蛍は首をかしげつつ
祖父の宮に、眞木柱とのお付き合いを申し込んでみた。
「こんなおっさんでよければ」
「よころんで!」
祖父宮はすごいやる気をみせた。
父髭黒は不承知なのに、とんとん拍子に話が進む。
婿かしづきされる蛍のほうが戸惑うくらいで
蛍兵部卿宮、眞木柱を娶りて冷遇*―か
ひでえな、俺。
これからの展開に我ながら苦笑する。
眞木柱は美しい人で、十六、七歳の少女だった。
加齢臭するおっさんを毛嫌いするお年頃だね
蛍は見た目かなり若いし、加齢臭もしないのだが
それでもお互い、やはり戸惑う。
父のような男を前にした女と
娘のような女を前にした男。
蛍はきゅっと抱きしめて
抱きしめるだけの結婚をした。
女学生くらいだもの、まだ
こんなおっさんを受け入れろと言うほうが間違っている。
女は怖そうに、すこしふるえて
でもいやがらず蛍の腕に抱かれた。
その人を撫でながら、ただ
昔のただひとりの人を想う。




