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朱雀と弟  作者:
第四部  借り物を返す旅路のはじまりにさしのべらる手二度と離たず
133/175

32-9 丑寅の町

「親父たちは柏木を丑寅の町に連れてきて。いいね、蹴鞠は

ここでやる」

丑寅の町は花散里の町、つまり夕霧の居所だった。

柏木の垣間見をなんとしても阻止するため

夕霧、幾重もの防衛線を張っている。

その第一はまず場所で

「宮さまのそばで蹴鞠はしない。そうすれば、几帳がめくれあがった

って見られることはないはずだ」

まずは物理的条件の排除。

それから行動規制。

「今日一日ずっと蹴鞠をやるように仕向けて。休憩中も俺がそばに

いて、宮さまに近づかないよう、うまく誘導するから」

父と叔父に念をおして駆けていく。

「気合入ってるねえ」

蛍はそんな甥っ子の姿をいとおしそうに眺めた。

「あいつは今日が勝負と思ってるらしいからね」

光も軽く微笑む。

「事件の発端をつぶすことで、その先の展開を変えようとしてる」

「進路変更ってこと?」

「そそ。この連結ポイントを変えて、未来を別方向へ走らせるつもりだ」

「凛々しいこと」

蛍はやさしく笑うと、うーんと伸びをしながら立ち上がった。

そこへ

「こんにちは」

春の陽気にさそわれ、柏木がてててっとやってきた。

「よう」

光と蛍は、ふり向いて同時に笑った。

「柏木、夕霧があっちで蹴鞠してるらしいから、一緒にいこうか」

「はい、喜んで」

柏木はすなおにうなずくと

三宮のいる本殿を離れ、北東の対へてくてくついてくる。


「柏木うめえ」

蛍が感心するように、柏木の鞠さばきには際立つものがあった。

太政大臣家の子息は他にも来ているが、やはり柏木が一番上手い。

今日は本式の蹴鞠だから

輪になってリフティングしあうだけなのだが

他の人がまずく蹴り上げた球もきちんと受けて

取りやすい球にして返してくれる。

だからゲームが続く。

一人だけ勝とう勝とうとするやり方ではなかった。

皆との調和やゲームの展開に注意しつつ

自分の技能は意識してない。

そこが上手い。

「俺も蹴鞠では大臣さんに勝てなかったからね」

光も笑って柏木の様子を見ていた。

やはりこの子が、一番父親の特技を受け継いでるな。

しかも性質はずっとやさしいし。

柏木なら宮さまともお似合いなのにと思った。

どうして彼はあのとき返事を留保したのだろう。

大将も、かんの君も、みな、おり給ひて、えならぬ花の蔭にさまよひ

給ふ夕映、いと清げなり。*

「よし。じゃ俺も参加しようかな」

ずっと入りたくてうずうずしていた蛍が、ついに腰を浮かしかけた。

「だめ!蛍さんが入るとすぐ蹴球になって、球がどっか飛んでっちゃ

うんだから」

「お前らが取れないからだろー」

「あんたがシュートするからだろ」

夕霧と蛍はけんけんがくがく、いつものように仲がよかった。

皆も笑って

「じゃいくよー」

ぽーんと蹴り上げる鞠を一心に見つめる。

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