32-6 四十の賀
年末になって、いよいよ光四十の賀
大きな宴がふたつあった。
まず神無月
紫が光のために二條院でお祝いをする。
美しいしつらえをして、楽人、舞人を多く呼んだ。
「面倒くさいな。まあ柏木と一緒なら舞ってもいいけど」
夕霧はそっけない態度で、でも美しく入綾を舞った。
隣の柏木と息もぴったり合っている。
紅葉が散って、昔の紅葉賀が思い出された。
たしかにあの時の光は、鬼神のごとき美しさだったわけだが。
「お父上方と同じように、立派なご子息ね」
「官位はこちらのほうが、やや進んでらっしゃるわよ」
人々はそういって夕霧柏木を褒めそやした。
そうさ、俺は柏木と一緒に出世していくんだから。
夕霧、クールながらも少し誇らしげに柏木と微笑む。
「私も参りましょうか」
冷泉帝も父の長命を喜んで、つい行幸しようとした。
「あまり大げさにしないで下さいよ、年齢感じちゃうから」
光が苦笑して辞退する。
それでも師走の廿日あまりに、今度は六條院で宴が開かれた。
今度は秋好中宮まで里帰りなさって、光の長寿を祝ってくれる。
「そんな、いいですよ。もっとささやかで」
言うのだが、宮廷人のほとんどが関係者のため
祝もたいそうにならざるをえなかった。
古き世の一の物と名ある限りは、みな、つどひまゐる御賀に
なんあめる。*
とにかく豪勢にしたいらしい。
「夕霧くん、右大将にします」
冷泉帝は、父を祝う代りに夕霧の位を上げてくれた。
まだ十九なのだが、秀才なかなかの昇進ぶり。
「すみませんね、気使わせて」
「いえ。前任者がやっと辞めたので」
にこにこ笑って言うから光も苦笑した。
まさか、何か手まわしてないよね、冷泉さん?
世の何者をも恐れぬ無邪気さだから、少し不安になる。
「ほら光、ここに座って」
光の席は太政大臣がしつらえてくれていた。
この人らしく、これまた豪勢。
「何か照れますね」
光は笑って頬をかいた。
太政大臣は年相応に恰幅もよくなっているが
光は相変わらず、いつまでも老いないような若々しさで微笑む。
「アンチエイジングは貴族の基本だよー」
蛍は得意の琵琶を抱えて、べべべんと弾いた。
光は琴を、大臣の和琴とあわせる。
「今日は競わないんですね」
「お前とはもう張り合わないことにしたんだよ。傷つくし」
「やっと悟ったんですか。もう、大人になっちゃって」
「うるさい」
言いながら、にやりと笑った。
婿の夕霧がいい勢いで、大臣機嫌がいい。
年末だし、派手なことは控えようと思ったのだけど
冷泉帝、春宮、朱雀院、秋好中宮
尊貴な人のほとんどが縁者なので仕方ない。
除夜の鐘に突き出される前のこの世の煩悩
すべて集めだしたかのように。
派手で雅な宴になった。




