6-1 青海波
六.紅葉賀
秋の紅葉をかざしにして、光は青海波を舞った。
彼女が、見ている。
舞いながら、光の心はここになかった
彼女の背を、父の隣に座る彼女の背を、ぎゅっと抱きしめたく思う。
「お体の具合はどうですか。俺は心配でならない」
会いたくて、直接話がしたかった。
「はじめよりはいいです。あなたもご無理をなさらないで」
その文を、光は経文のように広げて見た。
無理するなって、無理に会おうとするなってことかな。
苦笑して、でもそう思うのも無理ないかもしれないと察した
舞などすると、我ながら人でなくなりそうで、神にも鬼にもなりそうに思う。
本番の日は朱雀も舞を見ていた。
四十人が吹きたてる笛の音が本物の深山おろしのようで、
吹きすさぶ風の中、美しく装束した光が現れて―
色々に散りかふ木の葉の中より、青海波の輝き出でたるさま、いと、
恐ろしきまで見ゆ。*
本当に恐ろしいほどだった
舞い散る紅葉が逆巻く情念のように、燃えて光をとりまいた。
葵とすれちがい、紫をかわいがって、光は日を送った。
我ながら、それに慣れてきたように思う。
葵は、うちとけないけど浮気者じゃないし、俺が大人になって歳の差
など気にならなくなれば、そのうち馴れてもくるだろう。
紫は夕顔のようにかわいいし、しかも才もあるから育てがいがある。
葵にない癒しを、この子から得ているような気がした。
もちろん、根本問題は何も解決してないけど。
藤壺が里帰りしているというので、香も甘く気合を入れて参上した。
でも、会えない。
まるで加害者扱いだな
そうかもしれないけど、つらく寂しく思った。
兵部卿宮がきて、御簾の内で兄妹水入らずで話すのがうらやましかった。
俺も昔は入れたのに
手を取ったり、そばに寄ったりして直接話したのに。
そう思うと、耐え難くなって座を去った。
実家にいるときくらい、会ってくれてもいいのに。
その包み隠す態度が、俺を膨らませるんだと思う。
膨らんではちきれそうで、胸がつらいよ。
いつかこのマグマが爆発するんじゃないかと、怖くも、またそうなれば
いいとも思った。
君は俺の女だよ。
そう、言いたい。




