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朱雀と弟  作者:
第四部  借り物を返す旅路のはじまりにさしのべらる手二度と離たず
128/175

32-4 最後の晩餐

「君ほどの女が出家だなんて。気でも触れた?」

光は懐かしい人に会っていた。

朱雀がまだ帝だった頃の尚侍。深き思い出の朧月夜。

「私も年をとりましたもの。浮わついた多情女も、四十過ぎれば

ただの人ですわ」

朧月夜はひかえめに笑った。

「兄貴がいなくなったのが、そんなに寂しい?」

「ええ」

きかれて、こくりとうなずく。

彼女はまだまだ美しく

しかも年を重ねて、完成された美がそなわっていた。

来たからにはもちろん、抱くしかない。

今さっき紫だけと言ってたような

そうはいっても光源氏、仕方ないらしかった

紫いちばん朧は二番

光を我慢させなくする香りが、いくつになっても彼女にはある。

「あまり女と遊んでばかりいちゃダメよ。もう大人になったんだから」

朧月夜は笑って、でも拒むことはなかった。

いま始めたらんよりも、珍しくあはれにて*―

思い出すことがいろいろあった

彼女には本当に、助けられてばかりだった。

俺がつらいとき、いつも抱いて慰めてくれたね。

本当に本当に、やわらかく、やさしかったと思う。

「今日は俺が慰めてあげるね」

そっと、やさしく抱いた。

若い頃の情熱より、あたたかく、心地よい響き。

「死ぬ前の最後の晩餐てわけだね。裏切り者のユダさん?」

「人は皆、罪深いものですわ。それにあなたのせいですよ、そんな

美しい悪魔の姿をして、私に愛をささやくから」

ふたりは最後まで静かに楽しく過ごした

上品な大人の、おいしい思い出の食べかた。

「それはよかったですわね」

紫は思わず苦笑した。

そんなことまで、やっぱり私に語る癖。

もう怒る気も失せちゃった。だって悪気ないんだもの。

わざとなら直すすべもあるけど、自然だから仕方ない。

「彼女ともお別れしちゃった。さみしいね、年をとるってのは」

光は紫ばかりを抱きしめて眠った。

ありしよりも、けに深き契りをのみ、長き世をかけて、きこえ給ふ。*

そう、長い夜をかけて

ただ紫のためだけに、変らぬ契りをかわす。

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