32-3 永遠に特別
今宵ばかりは、「ことわり」と、ゆるし給ひてんな。*
三宮はまばゆいばかり、美しく飾られて裳着をし
六條邸に来ていた。
一応結婚した形になってるので、最初三日は途絶えなく通う。
「今日で最後だから。後はもう行かないよ」
光があまりはっきり言うので、紫は苦笑してしまった。
「そんなこと。宮さまにお気の毒ですわ」
「気の毒なのは俺の方だよ。こんなうちさうぞきて会いに行かなきゃ
いけないなんて。あの子が帝で、俺が更衣みたい」
「そんなこと」
紫は笑いながらも、少し寂しく思った。
光を三日も続けて他の女の所へ送り出したことなど
もちろん今まで経験がない。
若い頃から慣れているならまだしもなのにと思った。
可愛がられ甘やかされてきた三十女に、この経験はつらい。
胸がじんと痛む。
「すぐ戻るから。起きて待ってて」
「え?」
光が言うので思わず注意してしまった。
「だめですよ、明け方までいてさしあげないと」
言いながら、とても切なく思う。
なかなか寝られなくて、寝返りばかりうっていた。
ところへ
「むうー、むうー」
とんとん、格子を叩く音がする。
驚いて開けさせた。
まだ午前零時。やっと日付が変ったくらい。
「どうなさったんです?」
「戻ってきた」
光はにっこり笑って紫を抱きしめた。
すこし袖が濡れてる。泣いてくれたのかな。
光は胸がつんとした。
「俺をあっためて」
紫を抱いて、そのまま寝床に入る。
「あの、宮さまは?」
「もう寝たよ。お子さまだもん、九時には寝なきゃ」
「早」
いいながら、その体が気になる。
「抱くんですか、私を」
彼女を抱いたその体で、とはきけなかった。
さすがにそうはっきりとは恥ずかしいと思う。
「手出してないよ、彼女には」
光はきょとんとすると、紫の髪を撫で、胸に顔を埋めた。
「だって娘ほどの年の子だもの。さすがの俺でも、ちょっとね」
言いさして、本音のためらいが見える。
「私には手をおかけになったじゃないですか」
「君はあまり可愛かったから。それに俺も若かったしね」
光は手をとめると、紫の頬をすべすべ撫でた。
「年をとって、子を育てて。俺も若い頃とは違うんだなってことが
よくわかったよ。もう、ただ可愛いだけの女じゃ物足りない。
君みたいな人じゃないと」
すりすり頬ずりして、口をつける。
「君がいけないんだよ。君がそんな欠点のない完璧な姿で、ずっと
俺に寄り添ってくれるから。他の女なんてとても抱く気になれない」
「私のせいなんですの?」
「そうさ」
光は笑うと、可愛い耳たぶにふれながら言った。
「三日も耐えたんだよ。責任とってね」
紫をてれさせて、くすくす笑う。
あとはもう天国だった
いつもと同じ、紫と終日遊んで
「もう行かないで」
裸にされて、紫は切なそうにあえいだ
「私だけを見て」
「わかってる」
光はそれが聞けて満足だった。
あまり嫉妬されないのも寂しいしね
ぎゅっと抱きよせて眠る。
紫には俺しかいないんだと思った。そして俺にも、紫しか。
「愛してる」
そっとささやいて眠った。
どんな女がきたって紫にはかなわない。
彼女は永遠に特別な存在だと思う。




