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朱雀と弟  作者:
第三部  母なき子よたりいつたり集ひきてあひ惑はんやしあわせ探し
123/175

31-7 無限地獄

「よかったね。本当におめでとう」

夕霧の結婚を誰より喜んだのは、やはりこの人かもしれない。

朱雀はやさしく笑っていた

いつものように、控えめに

でも胸いっぱいの感動が、瞳からあふれ出しそうに見える。

「葵さんもよろこぶね、きっと」

見せてあげられたらいいのにと思った

でもきっと大丈夫だよね

高い空の上から

夕霧くんの幸せを、きっと誰より喜んでくれてるはず。

「まだ供養してるんですね」

夕霧はすっと目をあげると、蒼い瞳で彼を見た。

「十年すぎても祈りを欠かさないなんて。あなたくらいのものですよ」

「だって、生きてるとき何もできなかったから…」

朱雀は目を伏せると

「夕霧くんのこと、いつも話してるんだ」

そう言って、ほほえむ。

「母に会いたいですか?」

「うん、お会いしたい。でも俺で、会えるかどうか」

「あなたでダメなら、俺たちなど到底無理ですよ」

夕霧は苦笑して、極楽の遠さを感じた。

「死んだらどこへいくんでしょうね」

新婚幸せの絶頂にこそ、薄い死の影を夕霧は感じた。

「地獄とか、本当にあるのかな」

神さまにしては面倒くさい施設を作るもんだと思う。

「案外ここが地獄なのかもしれないね」

朱雀はいつもの調子でのほほんと言った。

「そんなにこの世がつらいんですか?親父にいじめられすぎて?」

「いや、そんなことないけど」

すこし苦笑すると

「長い人生が終って、疲れて、すこし休みたいな、十年くらい眠りた

いなと思うのに、もう次の瞬間生まれ変わって生み落とされるとか」

「輪廻転生、無限地獄?」

「そうそう。生まれすぎてずっと休めないのが地獄なんじゃないか

なって」

「それは朱雀さんにとっての地獄でしょ」

「ふふ…そうだね」

「どのくらい寝たいんですか」

「ぐっすり、三年くらい?」

「長。どんだけ普段寝かせてもらってないんです」

「けっこう寝てるんだけどね。寝てるときが一番しあわせなので」

すっかりじじいめいたことを言いつつ

この人が一番変わらないんじゃないかな

白く美しい顔で笑った。

昔からずっと、俺にやさしい。

「じゃあ俺たちは、愛しい恋人にも地獄での再会を誓ってることに

なりますね。くり返し愛をささやいて」

「そうだね。でもふたりでいられれば幸せだよね、きっと。苦しくて

もなんか、しあわせに感じる」

「それはあなたがエムだからですよ」

「そっか」

褒めてないのにすこし照れてるのがおかしい。


「どこに逝くのも、怖くないんですね」

「怖いというか、仕方ないって感じかな。俺をこの世に連れてきて

下さったのも、きっと誰かなんだろうから。その方の連れてってくだ

さるところへ、また行くだけというか」

「神ってやつですか」

「わからない。仏さまかな」

「相変わらず他力本願ですね」

「そうだね。終らせることしか知らない」

朱雀は伏せていた目をそっと上げると、夕霧に笑った。

「今まで本当にありがとう。光や蛍や冷泉さん、夕霧くんに会えて、

とても楽しかったです」

本当に楽しかったと思う。

「今すぐ死ぬような口ぶりですね」

「うん。永遠に眠りたいの」

朱雀は酔えない酒をきゅっとあおった。

「こらこら、何しめっぽい会話してんの」

後ろから蛍が割って入って、ばっとふたりの肩を抱く。

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