5-5 歌のない交信
「吹く風にも秋の深まりを感じます折々、いかがお過ごしでしょうか。
先日はあたたかいお手紙をいただき、ありがとうございました。
広い世間に鍛えられず、のんきにのみ日を送ってきたものですから、
歌のない交信を、とのご所望に、こちらこそ救われる思いが致します。
ふつつか者ではございますが、どうか末永くお付き合いいただけれ
ばと存じます」
「さかしらにあのような文を出しまして、不躾な、はしたない女と思
われたのではと心苦しく思っておりました。
お返事どれほどうれしく、ありがたかったことでしょう。
私も、文や歌をとり交わすことなく現在の生活に入ったものですから、
歌には自信がございません。周りの者は褒めますが、所詮身内の
評価、本当はどの程度なのかわからず、戸惑うこともしばしばです。
春宮さまは、いかがですか」
「俺はできが悪いので、博士たちには厳しく教えられております。
さぞ甘やかされているだろうと見破られているのか、自分たちは
本音でいこうと思うようです。ありがたい鞭撻ではございますが、
やはり叱られてばかりだと、落ち込みますね」
「まだご学問をなさっておいでに?」
「はい、昔ほど長くはないのですけど。
即位するまでにすべてを教えこもうと思うのか、ありがたいやら
苦しいやらです」
「上にお立ちあそばされるお方は、ご苦労もひとしおなのですね」
「いえ、人の倍時間がかかっているだけなのです。もの覚えの
悪いほうで…
母などはすぐ光と比べますので、叱られることもたびたびです」
光の話題に文が途絶えて、朱雀はすこし困った。
喧嘩中、だったのかな?
いまさら話題をかえるのも変で、すこし頬をかく。
「お気を害されたのなら申し訳ございません、ですが…
何か、おありだったのですか」
その日最後の文は、夕暮れ、日の沈む頃届いた。
「何も、ないのです。私は良人のこと、何も知りません。
どう知ればいいのか、どう話したらいいのかわからずに
困っております」
葵さん…
朱雀はその文を、暗くなっても火を灯して見ていた。




