31-1 執念きぞかし
三十一.藤裏葉
わが心ながら、執念きぞかし*―
夕霧はすこし感心すらしていた。
俺ってすごいよな
十八とか、煩悩まっさかりの頃だろ
それをたいしたロマンスもなく、涼しい顔で過ぎちゃって。
殴られたことを恨んでるってわけじゃないんだけど
伯父さんには、やっぱり少し近寄りがたい。
俺まだ宰相中将だしな
雁のこと好きだけど、好きだからこそ
きちんと責任果たしたいと思う。
そんな夕霧を応援してくれたのは、やはり祖母だった。
弥生、祖母の忌月の法要で
伯父内大臣と夕霧、久々に公式の場で一緒になる。
伯父は相変わらず、君達を引き連れて豪勢だった。
夕霧は少し離れた所で、派手ではないが、美しく座っている。
皆が帰り始めた夕暮れのこと
「なあ夕霧、まだ怒ってるのか?」
散る花を眺めていた夕霧の袖を、内大臣が引いた。
心なしか、以前より少し弱ってみえる。
「死んだ祖母さんに免じて許してくれよ。じっと待ってる雁を見て
るのは、つらいんだ」
夕霧は「おや?」と思ったが、丁寧な態度を崩さなかった。
「許すだなんて、そんな。許していただくのは俺の方です。ただ、
まだお怒りはとけてないのかと思って」
冷たい響きではなかった。
緊張というか、戸惑いに近い。
内大臣は一瞬ほっと嬉しそうに笑うと
雨が降り出したので、急いで帰っていった。
伯父さん、あんな人だっけなあ。
何かもっと、強大な壁みたいに立ちはだかってる気がしたけど。
年をとって、考え方が変ったのだろうか。
夕霧十八歳
殴られた頃より、だいぶ背も伸びていた。
もう父に近い。
伯父さんの背が、心なしか小さく見えた気がした。
自分が伯父を脅かすほど立派に成長しつつあるということに
若者、まだ気づいていない。




