30-3 片付かない子は気にかかる
姫君の裳着は、秋好中宮にしていただいた。
一般人の喪着を中宮に頼むなんてまずありえない
異例中の異例なのだが
「将来お后になられる方ですから」
冷泉兄、微笑んで中宮にすすめる。
冷泉にとっても愛しい妹だった
一度も会ったことはなかったが。
朱雀の子、春宮の元服は、如月廿日のことだった。
春宮十三歳、お若いがしっかりしておられる。
光が又なくかしずく娘を入内予定だというので
他の人は娘の入内を躊躇していた。
「それはもってのほかのことだ。宮仕えはわずかな差を競い合い、
高めあうのが本来の姿でしょう。立派な姫君たちを押しこめておく
のは、もったいないですよ」
光はそう言って入内を少し延期した。
左大臣の娘が先に入内して、麗景殿とよばれた。
まあ誰が来たって同じことさ、うちの子の敵じゃない。
光自信満々なのか、春宮に期待させるようにわざと遅らせて
卯月に入内させることを決めた。
「よっし愚民ども。うちの子の手本となるような絵と字を書いてこー
い。上手な奴は採用してやってもいいよ?畏れよ崇めよ奉れよー」
光は姫君入内の前に、手本となるような仮名文字を集めていた。
付き合いのある上流貴族たちに、栄えある任務を仰せつける。
「何だあいつは、調子にのりやがって。既に国父のつもりか」
夕霧はいらっとして、つい殴りかかりたくなった。
「まあまあ」
それをいつも柏木がなだめてくれる。
「お嬢さんが非のうちどころのない貴女に育ってくれて、うれしいん
だよ、きっと」
「あんな非のうちどころしかない親なのに」
夕霧が悔しそうに光を見やる。
「親って皆あんなもんなの?あんなに浮かれて」
「うーん」
柏木は苦笑すると
「うちの親も、女の子では苦労してるからね」
肩をすくめて笑った。
「いい子は宝だけど、悪い子は恥だ。片付かない子は気にかかる」
やさしい瞳で夕霧を見た。
「雁のこと、いつまでほっとくの?待ってるぜ、親父も。お前が言い
寄ってくるのを」
「だってまだ位が」
夕霧はきゅっと口をむすぶと
「見返してやりたいんだもの、皆を。誰にも異をとなえさせないくらい
立派になってから会いたい」
「それじゃ雁が可哀想だよ。もう二十歳だぜ?これでもしお前が他に
嫁でももらってみろ、立つ瀬がないだろ」
「それはない」
夕霧ははっきり言うと、柏木を見つめた。
「雁を裏切るようなことは絶対しない。誓ってもいい」
「よし、じゃあ誓え」
「おう」
夕霧は柏木と右手を組むと、がしと握りあった。
互いに目を見てうんとうなずく。




