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朱雀と弟  作者:
第三部  母なき子よたりいつたり集ひきてあひ惑はんやしあわせ探し
113/175

30-2 いと、けぶたしや

「朝顔さんから香が届いたことだし、ちょうどいい、今日薫物合せ

します。判定お前ね」

「え、また俺?」

蛍はすこし頬をかいた。

「お前は自分で判定できんのか?」

「だって俺プレイヤーでもあるもん。俺が決めたら不公平じゃん」

「はあ」

蛍は嘆息すると、仕方なく座についた。

いと、苦しき判者にも、あたりて侍るかな。いと、けぶたしや*

「難しいんだよな、これ」

綺麗な瞳を潤ませて、甘い香りにむせぶ。

そうはいっても百花繚乱

光の目をかける女たちの薫物だけに、すばらしい調合が多かった。

紫の梅花、花散里の荷葉、光の侍従、朝顔の黒方

春夏秋冬それぞれに、甘く懐かしい香りがする。

明石の百歩も捨てがたいし

「もう、どれでもいいんじゃね」

蛍は判定を放棄して、うーんと伸びをした。

「ずるいな、ひとつに決めろよ」

「決められねえよ、どれも捨てがたいもの。お前んちの女と一緒さ」

蛍は淡く苦笑した。

こういう多情な金持ちが女を救うこともあるんだろうか

一人に決められないことが、逆に多数を救うだなんて。

光ならそう思いこんで幸せに暮せるかもしれないけど

俺には無理かなと蛍は思う。


「夕くん、柏木、来てー」

おっさん二人は酒を飲んだ。

そこに若者を呼んで

「何か吹いて」

一曲所望。

「あんたらな、俺のことただで使える芸人だと思ってるだろ?

いつも便利使いして」

夕霧はいらっとしてつい反抗した。

「芸人てほどでもないよね」

「ね」

光と蛍が顔を見合わせる。

「せいぜい家庭内芸人くらい?」

「そうそう。俺たちと合わせるのが関の山?」

「てめえら…」

いらっとしてつい手を出しかけた夕霧を、柏木が苦笑して止めた。

光の筝、柏木の和琴に、蛍の琵琶、夕霧の横笛で奏でる。

「なかなかいいメンバーだよね、これ。今度ライブしようか」

「野外ライブですか?」

「そうそう」

「桜の頃がいいね」

「雪ん中もまた格別」

「いいですね」

「寒いでしょ」

笑う柏木に夕霧が眉を寄せて

蛍から光、光から柏木と杯が回った。それから夕霧へ。

 うぐひすのねぐらの枝もなびくまでなほ吹きとほせ夜半の笛竹*

雁が恋しがってるぞ。早く言い寄ってやれ。

柏木は笑って夕霧に杯をさした。

 心ありて風の避くめる花の木にとりあへぬまで吹きや寄るべき*

だって伯父さんのガードが固いんだもの。躊躇して。

夕霧が苦笑して受ける。


蛍が帰ったのは、明け方近くになってからだった。

また夜更かししちまった

だめだな貴族ってのは。お肌に悪い。

光が直衣やら薫物やらをくれるので

 花の香をえならぬ袖に移しもてことあやまりと妹や咎めん*

こんな匂いをつけて帰っても、似合わないと叱られそうだよ。

礼を言って帰路についた。

「なんだ、やけに元気ねえじゃん」

光はそれを追いかけさせると

 めづらしと故郷人も待ちぞ見ん花の錦を着て帰る君*

女でもできたかなって、皆が喜ぶぜ。

にやりと笑って歌を送る。

「どうせ俺は独身だよ」

蛍は苦笑してつぶやいた。

いつかまた、妻を持てるかな。

そのとき俺は俺に、彼女に、許されているだろうか。

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