30-1 ゆがんだ魅力
三十.梅枝
御裳着のこと、おぼしいそぐ御心おきて、世の常ならず。*
明石姫君は十一歳になっていた。
大きくなったね
たしかにそろそろ裳着、入内の頃になる。
夕霧も十八歳になっていて
「玉ちゃんもいなくなっちゃったことだし、男ばかりでつまらん
遊びでもしようか」
光はやる気なさそうに言った。
「ちょっと待て。俺のことは?えらい放置だが」
雁と会えず、早六年。
夕霧我ながら驚いた。
内大臣と和解したのが、たしか「行幸」の時だったよね
あれから早二年。
特に両家の関係悪いというわけでもないのに
夕霧のことを、光まったく言い出さず。
伯父内大臣すら気にしてたのに、光まったく意に介さず。
いや、わかってたけどね
親父にとっては
俺<玉ちゃん
だろうし、もちろん
俺<<明石姫君
だろうけど。
「何お前、言ってほしかったの?」
光はきょとんとすると
「だって、めんどかったんだもの」
ふふと笑った。
「自分の嫁くらい、自分で何とかしないとね」
「ね」
蛍と顔をみあわせ、「ねー」とうなずく。
「あんたら、玉ちゃんいなくなってからテンション低いな」
「だってもうつまんないし」
「そうそう」
「俺三十九だし。四十前だし」
「もう立派なオッサンだもんね」
「ねー」
目を細めて、二人まったりうなずく。
「お前もそんなに暇なら外でも走ってきなよ。うちの外周広いから
けっこう運動になるよ」
「そうそう。若者は足腰鍛えないと」
「暇じゃないわ」
夕霧は悪態つきながら出ていった。
柏木とでも遊んでこようっと。
雁への文も。
もう会えないことに慣れすぎているかもしれなかった
切なさも通り越して、たたたっとさわやかに駆けていく。
「きれいな梅だね、散りすぎてるけど」
「ああそれ、朝顔さんの」
光は手にとって眺めた。
「あの人も四十路だろうな。俺たちお互い、盛りはすぎたね」
すこし寂しげに笑う。
花の香は散りにし枝にとまらねど移らん袖にあさく染まめや*
花の香、か
蛍も枝をとって、そっと匂いをかいだ。
まだ早い、春の匂い。
玉ちゃん元気かな?
生後三ヶ月といえば、おっぱいやおしめで大変な頃かもしれない。
母強しなんだね
必死に現実に適応しようとする母を、愛しく思う。
「最近香にこってるんだ。うちの子の裳着が近いから、その贈物にと
思ってね」
光は蛍に似てしんみりしながら、庭の見える縁に座った。
「もう嫁入りさせちゃうんだ」
蛍がくすりと笑って言う。
「親の支配をこえる、とか偉そうにほざいてたお前がね。結局誰より
野心的な親になっちゃって」
「だってそれが一番あの子のためなんだもの。お后だぜ?女の中の
女、最高の位じゃねえか。これ以上の幸せはない。俺が保証する」
「相変わらずの自信だな」
蛍は淡く苦笑した。
まあこういう自分勝手なゆがんだ所が、光の魅力なのかもしれない。




