5-4 恋は盲目
「なんだよあれ、説教か」
光はまだ不機嫌そうだった。
すこしふくれて蛍を見る。
「わりいわりい、ちょっとやなことあってさ。気が沈んでた」
蛍は苦笑すると
「でもあれは本当だよ。その子はその子として、愛してあげてほし
いと思う」
やさしい目で光を見た。
「んなことわかってるよ」
「うん、余計な世話をやいたな」
蛍ははにかんで笑った。
こんなやさしいところのある男なのかと、光はその横顔を眺めた。
眺めながら、廊の陰に蛍を引き込むと
「お前、誰からきいた?」
さっきとは違う目でにらんだ。
腕をつかんできつく問う。
紫を迎えたことはまだ誰にも言っていないし、口止めもしたはずだった。
それに、彼女のこと。
蛍を信じぬわけではないが、どこからか漏れているのだとすれば
つきとめて手を打たねばならない。
蛍は微笑すると、そっと光の手をどけた。
「俺の独自調査さ、誰にも話しちゃいないよ」
「俺を調べてどうするつもりだ?何をたくらんでる」
「まあ落ち着けって」
蛍は光をなだめると
「その逆だよ」
やさしく笑った。
「お前このごろ必死だろ。なりふりかまってないというか、前しか
見えてない」
「そんなこと、お前に言われたくねえよ」
「まあきけよ。たしかに俺もひとのこと言えた義理じゃねえが、お前
は気をつけた方がいいぜ。スキャンダルをネタに、追い落とそうと
する奴が山ほどいる。俺はお前を守れるとは思わないが、味方に
はなるつもりだよ。お前が失脚すれば困る人がたくさんいるだろ。
たとえば、俺とかさ」
言って、にやりとした。
「なんだ、保身かよ」
「そうだよ。俺だって将来約束した相手のひとりやふたりはいるん
だから。でも、金のない男なんて意味ないだろ」
「まあな」
光がすこし落ち着く。
「父上の威光も永遠じゃないし、すー兄には弘徽殿さんが控えてん
だぜ。とてもかないっこないよ」
「そんときは右側につけばいいだろ、親王なんだから。日和見くらい
わけないことだ」
「まあそう言うなって」
蛍は微笑をかえすと
「俺はお前に味方したいんだよ。ついでに、その恩恵にも浴したい。
だからこそ気をつけろって言ってんじゃねえか。お前だって、大切な
もん守りたいだろ?左大臣を舅にしてるんだし、好むと好まざるとに
関わらず、お前の肩には一族郎党の未来がかかってんだよ」
だからがんばって、と肩をたたいて行ってしまった。
「なんだよ、自分勝手な」
光は嘆息すると、それでも思いあたる所があって、しばし沈黙した。
前しか見てない、か
たしかにそうだよな
内裏に上ったって、俺は彼女しか見ていない。
でも、恋は盲目だろ?
突っ走れない恋なんて、恋のうちに入るだろうか。
歩きながら、夜風に酔いを冷ました。
たしかに、食わせなきゃならない人がいるのは事実だ。
しかも、次第に増えてきている。
父の恩恵、か…
光は大きく息をついた。
何も負ってない自分ならどんなに楽だろうと思いながら、そんな自分
にはほとんど価値などないのだということも、光にはわかっていた。




