29-2 香炉とぶ
髭黒大将は、早く玉鬘を自邸に迎えたくて、そわそわしていた。
長年うっちゃっておいた箇所を、急いで修理させる。
大将には年上の古女房がいた
式部卿宮の娘、つまり紫の上の異母姉
その人との間に何人もの子もいた。でも全く気にしない。
北の方の、おぼし嘆くらむ御心も、知り給はず、かなしうし給ひし
君達をも、目にもとめ給はず。*
ただひたすらに、若い女にうつつをぬかす。
宮仕えも一応許可した
女官には里帰りがある
そのときついでに、自邸に引き取ってしまえばいい。
そうもくろんで、ひとりほくそえむ。
大将の北の方は、基本やさしい方だった。
ただ、時折物に憑かれてとても荒ぶる鬼となるらしい。
普段大人しい人だけに
限界までためていた怒りが爆発して
時折堰切ってあふれ出すだけなのかもしれない。
今日もそんな日だった。
玉鬘の所へ行くのに、いい匂いをたきしめるための香炉
それをたく北の方
どんな気持がするだろうか。
そういうことも思いやれない髭黒大将は自業自得で
案の定
「貴方こそ灰になれ!」
奥方の雷が落ち、香炉の灰をひっかけられてしまった。
「何するんだよ!」
思わず怒鳴りたいが、言えない。
この人は物に取り憑かれている。可哀想な人なのだ。
ばたばた慌てて衣を替えた
それでも鬢の毛までかかった灰はとれずに
仕方ない
今日の逢瀬は中止。
雪が降って、とても寒い日だった。
「ごめん、急に行けなくなってしまった。独り寝の身も冷えるよ」
うんぬんという歌を必死に送るのだが
かむの君、よがれを何とも思されぬに、かく、心ときめきし給へるを、
見も入れ給はねば、御返りもなし。*
玉鬘、もちろん髭黒など完全無視する。




