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朱雀と弟  作者:
第三部  母なき子よたりいつたり集ひきてあひ惑はんやしあわせ探し
107/175

29-2 香炉とぶ

髭黒大将は、早く玉鬘を自邸に迎えたくて、そわそわしていた。

長年うっちゃっておいた箇所を、急いで修理させる。

大将には年上の古女房がいた

式部卿宮の娘、つまり紫の上の異母姉

その人との間に何人もの子もいた。でも全く気にしない。

北の方の、おぼし嘆くらむ御心も、知り給はず、かなしうし給ひし

君達をも、目にもとめ給はず。*

ただひたすらに、若い女にうつつをぬかす。

宮仕えも一応許可した

女官には里帰りがある

そのときついでに、自邸に引き取ってしまえばいい。

そうもくろんで、ひとりほくそえむ。

大将の北の方は、基本やさしい方だった。

ただ、時折物に憑かれてとても荒ぶる鬼となるらしい。

普段大人しい人だけに

限界までためていた怒りが爆発して

時折堰切ってあふれ出すだけなのかもしれない。

今日もそんな日だった。

玉鬘の所へ行くのに、いい匂いをたきしめるための香炉

それをたく北の方

どんな気持がするだろうか。

そういうことも思いやれない髭黒大将は自業自得で

案の定

「貴方こそ灰になれ!」

奥方の雷が落ち、香炉の灰をひっかけられてしまった。

「何するんだよ!」

思わず怒鳴りたいが、言えない。

この人は物に取り憑かれている。可哀想な人なのだ。

ばたばた慌てて衣を替えた

それでも鬢の毛までかかった灰はとれずに

仕方ない

今日の逢瀬は中止。

雪が降って、とても寒い日だった。

「ごめん、急に行けなくなってしまった。独り寝の身も冷えるよ」

うんぬんという歌を必死に送るのだが

かむの君、よがれを何とも思されぬに、かく、心ときめきし給へるを、

見も入れ給はねば、御返りもなし。*

玉鬘、もちろん髭黒など完全無視する。

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