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朱雀と弟  作者:
第三部  母なき子よたりいつたり集ひきてあひ惑はんやしあわせ探し
106/175

29-1 わりと面食い

二十九.眞木柱

 朝日さす光を見ても玉笹の葉わけの霜をけたずもあらなん*

美しい帝を見ても俺のこと、霜のようには消さないでいて

長月、蛍からもらった文だった

玉鬘はまだ持っている。

隠して隠して、やっと持っていられるのだった

彼女の身はもう、自由ではない。

熱い恋や、後の世までの契りをささやかれたわけではなかった。

ただ、自分の無責任で妻を亡くしてしまったこと

それが忘れられない

そんな無様な告白をしてくれたこの人だけが、なぜか心に残る。

去年の夏の夜

美しかったなと思った

飛びかう蛍にまかれ、それを逃がして

瞳まで金色に潤ませていた人

己の弱さを知って

女を大切に思うほど、失敗を恐れていたっけ。

美しかったと思った

去年の思い出すべてが、蛍のように美しい。

今はもう逃げたけれど。

今の私は、過去の私ではない。


あんなに大事に守られていたはずの玉鬘は、結局

髭黒大将のものになった。

強引にものにされた、と言った方が正しいだろうか。

玉鬘は、もちろん承知していない。

いやでいやで仕方なかった

髭黒大将、御年三十二、三歳

その名のとおり立派な髭をお持ちで

戦国乱世に生まれればもてたであろう風采をしていた

体もがっしりしているし、よくいえば男らしい

まあこの平安の世では、あまり評価されないわけだが。

「玉ちゃん、ほんとにごめん」

この件について一番心を痛めていたのは、主の光だった。

「俺が守れなかったせいで…」

なんかもう、泣きそうに思う。

「仕方ないですよ、もう」

玉鬘は悲しげに微笑した。

あまりの心労に、顔まで痩せている。

それがまた弱々しくらうたげに、光の好みをさそった。

「どうせならもう、俺のものにならない?俺が嫌なら夕霧でもいい。

蛍でも。とにかく全勢力をあげて、俺らが逃がすよ」

玉鬘はただ苦笑を返した。

私が未婚のときでさえ手を出さなかった人たちだ

今さらどうなさるというんだろう。

他の男に取られるのはしゃくだから、取り返したいんだろうか。

そういうのもういいよ

男なんて皆同じ、自分のことしか考えていない。

「つらいだろうけどさ、宮仕えはしよう?内裏にいる間なら、大将

さんに独占されることもないし、俺の目も届く。大将さんちに連行

されたら、もう会えなくなっちゃうだろ?」

おのが物と、領じはてては、さやうの御まじらひも、難げなめる世

なめり。*

「はい、ありがとうございます…」

玉鬘は泣いていた。

ぽろぽろ、ぽろぽろ泣く。

この人と一緒になれたらと、心ときめかすこともあった。

光、蛍、夕霧、帝。

みな美しく、尊い人たちばかりだ。

それなのに。

なんで一番嫌だと思ってたあの人になるの?

ひどい、ひどいと思った

毎回責められてるのと同じだよ

私は嫌なのに、力ずくなんだから。

もう、こんなのいや

死んでしまいたいと思う。

「あまり思いつめないで」

光は肩に手をおくと、そっと慰めた。

「帝にも頼んでみるよ。君がずっと内裏にいられるように、なるべく

つらくないようにするから」

己の無力さを痛いほど感じていた

それから、玉鬘の好みも。

玉ちゃん、わりと面食いなんだね…

髭黒大将って、春宮を産んだ女御の兄だから

次期帝の伯父

相手として悪くないかもなんだけど。

やはりあの荒武者ふうの髭づらが、時代を先取りしすぎてるというか

今の女性には死ぬほど嫌らしい。

かしこに、わたり給はんことを、とみにも許し聞え給ふまじき、御気色

なり。*

とにかく光の全権を使って、玉鬘の気持が落ち着くまで、ここで守る。

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