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朱雀と弟  作者:
第三部  母なき子よたりいつたり集ひきてあひ惑はんやしあわせ探し
104/175

28-2 悪い子だ

「宮仕えを躊躇していただろ?蛍なんかが親切心を見せて気をひいて

たらしいけど、行幸に冷泉さんを見てからは、心が決まったらしい。

まあ女なら仕方ないよな。冷泉さんにはかなわないだろう」

「さあ、どうでしょうね。誰が一番お似合いなのか。冷泉さんには、やん

ごとなきお后女御がいるわけだし。尚侍なんて辞めればただの人なん

だから、それを理由に蛍さんを引き離すのも酷でしょう」

夕霧は、父にも大人びた返答をする。

「難しいな。俺一人で決められることでもないし。人の恨みをかうのも

嫌だしね。夕顔が生きていた頃から可哀想に言っていた人だから、

気になっていたんだ。いきなり実父の所へいっても受け入れられない

だろうと彼女が心配してたから、うちに引き取ったんだけどね。俺が

かしずいて立派に仕立ててやったから、内大臣も一人前の娘と認め

る気になったんだろう」

光は事実をゆがめながら、もっともらしく述べた。

嘘くさ

夕霧、はなから信用していない。

「世間ではいろいろ疑ってるようですね、あなたたちのことを」

少し出かたを見てやろうと思った。

「ずいぶん相応しくないことを言うね。宮仕えだって、内大臣が許して

こうしようと思うとおりに従うつもりだよ。女は三つに従うものだが、俺

は良人でも父でもないのだから」

おのが心に、まかせんことは、あるまじきことなり*―

「内大臣さんなんて、いたく感心なさってましたよ。あんな愛姫ばかり

の御殿に住まわせておきながら、あの娘にだけは手を出さず、まじめ

に世話して宮仕えにまで出してくれるのかって。ありえないほどやさし

い心だってね」

「何、お前まで疑ってんの?」

光は回りくどい会話に飽きてきて、直接きいた。

「別にどうでもいいですよ、俺は。あなたがどんなかしずき方をして

誰を抱こうが、俺には関係ない」

夕霧不機嫌なのか、ぷいと横をむく。

「何お前、すきなの?」

光は「おや?」と思って、すこし微笑んできいた。

「なんならお前にやろうか。冷泉さんも、お前の頼みなら喜んできいて

くれると思うよ」

「あんたの手垢のついた女など、誰が」

夕霧は言った後、つい顔を赤くした。

例の水商売的な絵がいろいろ浮んでくるらしい。

「お前、見たな?」

光は、にやにや笑って夕霧をこづいた。

「いつからのぞきなんて趣味もったの?悪い子だ」

「うるさい」

言いながら、のぞきは事実なので仕方ない

うつむいてきゅっと口を結ぶ。

「のぞいて楽しむとか、趣味が渋いぞ。そういうのが好きなの?」

「貴方と一緒にしないで下さい」

「俺は両方楽しめるもの。そんなに俺から学びたいか?習得したいのか。

仕方ない、かわいい息子のためなら、俺ひと肌脱いでやってもいいよ?」

「とりあえず今すぐ逝け」

アホな会話を打ち切って、夕霧は去ってしまった。

そのまじめぶったけなげさに、光はくすくす笑ってしまう。

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