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第四話


 なぁ~ご、という猫の鳴き声を聞いて、生後半年が経過した静姫は目を覚ました。

 小さな牢獄のようなベビーベッドの上で寝返りをうった静姫は、ふわぁ、と可愛らしく欠伸をする。

 最近の静姫は退屈を持て余していた。赤子用の玩具など単純すぎていじる気にもなれない。

 せめて無聊を癒せるようにと、お喋りを解禁して両親に専用のテレビでも強請ろうか、などと考え始めている。

 近くに両親か兄たちがいれば外に出してもらおうときょろきょろと周囲を窺うが、目に付いた生き物といえば、風通しのために開け放たれた縁側に佇む野良猫が一匹だけ。

 前世の世界でも猫はいたので、殊更珍しがって観察するほどの存在ではなかったが、他に見るべきものがないために自然と視線が猫へと固定された。

 静姫の視線を感じたのか、白と黒と茶のぶち模様をもった猫、即ち三毛猫が静姫の方へと顔を向け、目が合ってしまう。

 縦に尖った猫の瞳孔と対峙した瞬間、静姫の脳裏に閃くものがあった。


(この肉体でも魔眼は健在かどうか、暇つぶしに試してみようか)


 静姫は体内を循環する魔力を両目に集中した。

 すると、本人にはわからない変化が静姫に訪れる。部屋に差し込む昼間の陽光の下でさえその煌きがわかるほど、鮮やかな金色に両の瞳が染まった。

 目を合わせていた三毛猫がびくり、と毛を逆立てるも、合わせた目を外すことはない。


(人間の瞳でも魔力を視線に乗せることは可能だな)


 静姫は視線にごく弱い魅了の魔力を乗せて三毛猫へと送った。

 三毛猫は再びびくり、と体を震わせたが、毛並みを元に戻して剣呑な雰囲気を引っ込めた。

 魅了に成功したらしい、と悟った静姫は、もみじのような小さな手で三毛猫を手招いた。

 みゃあ~あ、と嬉しそうに鳴いて、三毛猫は部屋の中へ入り込んだ。そしてぴょんと跳躍し、1メートルほどの高さにあるベビーベッドの柵を飛び越え、静姫の側にト、と着地した。

 生後六ヶ月の赤子にとって、三十センチ以上もある三毛猫は小虎の如きスケールであるが、その程度のことで静姫が恐れを抱くことはない。

 そもそも魅了された三毛猫が静姫を襲うはずもなく、行儀良くお座りの姿勢で側に控え、静姫の命令ないしアクションを待っているようだった。

 興が乗って側に呼んだが、さてこの猫をどうしてくれようと静姫が考え始めたところで、第三者の声が部屋に響く。


「静姫から離れろぉーっ!!」

「フギャッ!?」


 大声で叫び、両腕を振りたくりながら勢いよく部屋に突貫してきたのは、神名宮家の長男にして静姫の兄である《一静(いっせい)》だった。

 一静は妹の様子を窺いに来たのだが、すぐ側に大きい猫がいるのを見て、静姫が襲われているのだと早合点したのであった。

 三毛猫は一瞬びくっと目を丸くして硬直するも、危険を感じ取って跳躍し、ベビーベッドの柵から箪笥の上へと避難した。

 一静は走り寄る勢いのままベビーベッド寝台枠の出っぱりに足をかけ、柵の上で腹ばいになって手を伸ばし、きょとんとしている静姫を抱き上げる。

 そして敏捷にベビーベッドから飛び降り、静姫を抱いたまま母親がいる神社の境内へと駆け出した。


「お母さん! 静姫のベッドに猫が入ってきてた!」


 長男の叫び声を聞きつけ、慌てて自宅へと駆け戻ってきた巫女服姿の姫乃を確認した一静は、ほっと気を抜いた。

 それがいけなかったのか、階段四段分ほど高くなっている神社の境内に駆け上がろうとしたところで石段に蹴躓き、前方に向かって盛大に転倒した。

 その拍子に一静の腕から空中へと投げ出される静姫。元々しっかり抱きかかえていなかったこともあり、六歳児の腕力では慣性を制御し切れなかった。

 静姫の小さな体が石畳に叩きつけられるまでの一瞬を、一静も姫乃も目を見開き、血が凍るような心境で見つめる。


「静姫ーーーっ!!」


 絹を引き裂くような姫乃の悲鳴が境内に響き渡った。


一話一話が短いなぁ……

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