第8話 栽培マンVSお嬢様
自然の音色が美しく聴こえ、森の中でも道が整備されて遠くに街の影が見える場所。僕は、地面に倒れ身体をぴくぴくとさせている。
女神さまと2人の少女の前で何故僕がこんな醜態を晒しているのかというと、少し話が遡る。
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「え?稽古?」
フラウムさんから別荘を提供してもらって、数日、僕はとても充実した異世界スローライフを送っていた。正直、そろそろフラウムさんになにかお礼をしないといけないなと思いながら、朝のコーヒー的な飲み物を飲んでいると、フラウムさんが「稽古しませんか?」と言ってきた。
「はい、フウタさんのお力がどんなものなのか気になりますし、力の制御がまだ慣れていない様ですので、もし、よろしければ、ワタクシと一緒に稽古をして頂きたいんですの」
そう説明するフラウムさんも紅茶みたいなのを美しい所作で飲む。彼女もこの屋敷に住むことになった。所謂、管理人的なやつだ。彼女的にも実家よりこっちの方がのびのび暮らせて都合がいいみたいだ。
「フウタさんや、ホントにお主はその黒くて苦いの好きじゃのう。どれ、わたしゃも飲ませてくれい」
フラウムさんと僕の会話をガン無視して、ピンコさんは僕の飲んでいたコーヒーを引っ手繰ると一口飲みだす。
おい、勝手に飲むな。
そして、こののじゃ魔女は当たり前のように住み着いている。仮とはいえ、住む場所が確保できたので、もう大丈夫だと言ったのだが、「ああ、大丈夫じゃ大丈夫じゃ」と何が大丈夫なのか分からないが、何故かそのまま住みだした。
「うげっ、やっぱり苦いのう。まったく、飲めたもんじゃないのじゃ」
人の飲んでるコーヒーを勝手に飲んで文句を言い出し、砂糖を勝手に淹れだす。
おい、勝手に入れるな。そして、当たり前のようにそのまま普通に飲むな。
「………………」
僕が心の中でツッコんでいると、ラフルさんが新しいのを出してくれた。
「あ、ありがとうございます」
ラフルさんにお礼を伝え、フラウムさんに顔を向ける。
「わかった。お礼もしたいと思ってたし、少しでもそれを返せるなら」
と、この時の僕は軽い気持ちで承諾したことを深く後悔した……。
外に出て、手合わせすると、恐ろしいぐらいボコボコにされた。彼女に向け拳を放つと、目にも止まらぬスピードで懐に入り、みぞおちに膝蹴りを入れらた。僕は激痛で腹を抱えながら空中に逃げ悶えていると、フラウムさんはその場で数回軽くジャンプをした後、地面を強く蹴り、飛んできて、驚く僕はそっちのけで踵落としを決めてきた。そのまま僕は地面に叩きつけられた。
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まあ……そんな感じで僕は地面でぴくぴくと痙攣している。
女神と2人の少女の前で醜態を晒し、とても死にたいンゴ……ていうか、一回死んでたンゴ。
そういえば、前世でも仕事で怪我してその痛みで動けないのに同期が蹴ってきたことが、あったなー。
身体の痛みと心の痛みで地面と添い寝をしている僕に足音が近づく。
「フウタさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないです……」
心配そうな声をかけてくれるラフルさんに僕は情けない一言を返す。
「いたいのいたいのとんでけー」
「ふう、治った」
「治ったのかのう!?」
ラフルさんの呪文でぬるっと立ち上がる僕にピンコさんはツッコム。
「参りました。普通にボコボコでした」
僕は、フラウムさんに頭を下げ、一応、学生時代やっていた剣道のような礼をする。
「セリフが情けないのう」
またしても、ピンコさんにツッコまれるが、仕方ない、本当にボコボコでしたもん。年下少女に手も足も出ませんでしたもん。
顔を上げフラウムさんを見ると、何故か少し頬を赤らめて僕の顔を見ていた。
「元々お可愛いお顔をしていると思っておりましたが、なんと言いますか……その……先程の苦痛に震えるお顔も……ふふ」
フラウムさんの目元に影がかかり目が怪しく光ると不敵に笑い出す。
その顔やめてー!気になる子をイジメたくなるあれに見えるから!もしかして、フラウムさんSなの?いや、Sでしょっ!
「くぅ……」
ああ、思い出す。小学生から仲良かった友達が中学校に上がってから突然、暴力、暴言を毎日してきてイジメてきたことを……。そいつは成績優秀、運動神経抜群だったから、かなりモテていたなー。それで陰で毎日僕をイジメてた。助けを求めてもかーさん以外誰も信じてくれなくて、むしろ、何故かこちらが悪者にされたっけなー。
「………………」
僕は、砂を払いながら立ち上がると空を眺める。
なんてくだらないことを思い出してしまったけど、別に気にしてないといったら嘘になるが、僕は普通に仲の良い友達は全然いたし、そういうやつなんだなーと思うことにしたし、卒業すれば関わりなくなるから、まあ、我慢しよーって感じだったし、本当に関わりなくなったからな。成人式で会った時は何故か決まずそうにしていたけど、何故だろう?それに声をかけたら盛大に無視されたな?
「なに浸っとるんじゃ?」
僕が、天を仰ぎ笑っていたので、ピンコさんは不思議そうに言ってくる。
「過去のトラウマと思い出を振り返っていたのさ」
「言い方軽いのう」
まあ、今となってはもう気にするのもバカバカしいしからね。もう、帰れないし。
なんて浸り続けていると、フラウムさんが口を開く。
「フウタさんの実力は分かりました。正直に申し上げますと、現段階では、お話になりませんわ」
ですよねー。今のどこをみて、僕が強いと思うか。と考えていたが、「ですが」と言葉を続ける。
「当たれば普通にワタクシが危なかったですわ」
フラウムさんは顔を横に向け、さっき僕が膝蹴りを喰らった場所を見る。
そこの地面がかなり抉れていた。
彼女の膝蹴りを喰らった時、拳から力が暴発して地面に拳圧的なのが、ぶつかって抉ったみたいだ。
「本当に力が制御出来ていないんですわね。使い方をお教えしてあげたいところなのですが、お話した通り、ワタクシは能力を持ち合わせていないので、基礎的な身体の使い方しか教えて差し上げれませんわ」
「いや、それでも十分だよ。ていうか、そんなに謙遜しないで、僕なんかに比べたら、フラウムさんめちゃくちゃすごいよ。沢山努力したんだね」
「え?」
僕の言葉にフラウムさんは目を見開いて驚く。
「僕なんかの言えたことじゃないけど、みんなの見えないところで頑張ったんだね。本当にすごい」
喰らったから分かる。あれは形だけで、出来るものじゃないし、自分の力を理解して誰よりも努力した身体の使い方だ。
僕も昔、沢山努力したから分かる。でも、僕と明らかに違うのは、『努力を実らせたこと』だ。誰よりも努力してたとしても自分の限界が分かっているのに身体に鞭を打てばその先にいけると、無理して『努力の方向性を間違えなかった』人だ。
フラウムさんは顔を下に向けていた。どうしたのかと考えていると、少し笑ってるように見えた。
「ありがとうございます」
「え?」
「今日はここまでにしましょう」
何故かお礼を言われ、きょとんとすると、フラウムさんは顔を上げず、僕に一礼をすると背を向けて、そのまま家の中に入っていってしまった。
パタンとドアの閉まる音と共に沈黙が流れて、僕は2人に目を向けると、なんとも言えない顔で僕を見ていた。
え?もしかして、言っちゃいけないこと言った?
2人に聞いたが、答えてくれず、家の中に入っていった。何故か家に入りづらくなったので、僕はランニングをしにいくことにした。




