第5話 つけていた理由
森の中にとても気持ちのいい風が吹く。それはとても穏やかに通り道を吹き抜けていくと広く見渡しのいい場所に出る。流れる風は広がりその綺麗にできたクレーターの周りをひゅーひゅーと気持ちよく、音楽のように美しい音を奏でる。
「………………」
そんな美しい自然のシンフォニーとは対照的にクレーターの真ん中で身体を縄で縛られた少女が地面とキスをしていた。
「ほんとすんませんのじゃ」
少女は地面とのキスはそのままに自分のしてしまったことを僕たちに謝罪をする。まあ、目の前で笑顔のラフルさんがすごい圧を放っているので当然か。我が家が吹き飛ばされたので流石の僕も擁護出来ない。
「さて、まずはアナタの素性を吐いて貰いましょうか?」
「あ、はいですのじゃ」
淡々と詰めるラフルさんに少女は大人しく素性を明かしていく。
「わたしゃは『ピンコ・ピシャリ・ピカリエ』なのじゃ。『治癒魔女』ですじゃ」
『わたしゃ』って、一人称独特すぎでしょ。それに『ピ』の密度。
「ヒールウィッチ?」
「名前の通り、この世界でいうところの医者または薬剤師的なものです」
聞き馴染みのない言葉にラフルさんは簡潔に説明してくれる。つまり、医療系の魔女なのに人の家と精神を壊してきたと。
「なるほど、なら、僕のこの傷ついた心も癒してくれますかね?」
「返す言葉もありませんのじゃ」
僕が冗談混じりに言うと、えーと、なんて呼べばいいんだ?ピンコさん?ピピピさん?……まあ、どっちでもいいや。彼女はさらに地面に顔を埋める。……ていうか、絵面がやばい。身体を縛って地面に顔を埋めてるとかまるでこっちが悪人みたいな絵面だ。
「顔が汚れるんで……いや、常に汚れているんで地面とのキスをやめてください。罪悪感がすごいです」
僕は逆に顔を上げる様にお願いし、縛ってる紐を解く。ラフルさんは少し驚くがそのまま見守る。少女は僕の行動に不思議そうな顔をする。
「解放してくれるのかのう?」
少女の言葉に頷き。瓦礫の中からまだ使えそうなタオルを渡す。
「汚れちゃってますけど、これで顔を拭いてください」
少女はタオルを受け取ると感動した様に涙を浮かべる。
「なんて優しい人なのじゃ。その優しさに免じて代わりに拭いてくれぬか」
「私が拭きましょう」
なんか図々しいことを言い出したが、ツッコムのも面倒だったので従おうとタオルを受け取ろうとしたらラフルさんが少女からタオルを引っ手繰り顔をゴシゴシと擦る。
「イデデデデデェッ!」
少女の顔が強く擦ったことで少し真っ赤になっていたが、これで絵面的に大丈夫そうなので、本題に入る。
「やっと本題に入りますけど、なんで僕たちをつけていたんですか」
「はは……」
「おっと、まだ顔が汚れてますね。それと知っていますか?泥パックというものがあって、それはかなり美容にいいそうです。試してみますか?」
「『不思議な魔力を感じたからそれを確かめたかった』だけじゃ」
ラフルさんがタオルを構えるとあっさりゲロった。ラフルさん拷問の才能があるのか?しかも、妙に手慣れている気がする。
「不思議な魔力って、もしかしなくても、『ラフルさん』ですよね?」
僕がラフルさんに問いかけると少女は首を振る。
「いや、『お主も』じゃ」
「え?僕って魔力持ってるの?」
少女の言葉に僕は気の抜けた声を出してしまう。そんな疑問に即座にラフルさんが口を開く。
「『魔力』と言っても、『気配』や『エネルギー』、『オーラ』など感じるものはいろいろ言い方があるので、その一種で彼女は『魔力を感じた』と言っているのでしょう」
「なるほど」
正直あまりピンとこないけど、納得しておく。僕としてはラフルさんの『女神オーラ』的なやつに引かれたのかと思っていたので、意外な答えに少し驚く。
「えーと、僕もその魔力ってやつを出してたとは思わなかったけど、まあ、大方予想通りって感じですね」
「わたしゃは自分でいうのはなんじゃが、魔力感知も得意じゃからのう。街に『変わった魔力が近づいてきた』時は身震いしたものじゃ」
少女は何故かやれやれと言わんばかりに胸を張る。
「なるほど、そのせいで僕たちはホームレスになったと」
僕の鋭いツッコミに少女は汗を流し目を逸らす。
「彼女はこういってますが、恐らく気付いてる人は何人もいると思います。ちょっかいかけてきたのが彼女だけだったということですね」
「………………」
ラフルさんの言葉にピンコさんはさらに沈黙する。
まあ、理由はとこかく家を破壊されてしまったので、どう落とし前をつけてもらおうかと考えるが一度冷静になって考えて僕はすぐに結論を出す。
「理由は分かりました。今回はわざとじゃないので、《《見逃します》》」
「え?」
僕の出した結論にピンコさんだけでなくラフルさんも驚いた表情を浮かべる。
「え?本当にいいのかのう?」
「言い訳ないじゃないですか」
唖然とするピンコさんと違ってラフルさんは食ってかかる。
「フウタさん、流石に優し過ぎます……いえ、優しさを掛け違えてます」
「そうじゃ、自分で言うのはなんじゃが、被害者がそう簡単に加害者を許しちゃいかんのじゃ」
ラフルさんは僕に強めの口調でいう。今まで優しかった彼女から向けられる否定の言葉に僕は驚く。それを見たピンコさんも冷静に僕を諭す。
「それにお主だけで勝手に決めちゃいかんのじゃ」
ピンコさんの言葉に僕はハッとなる。ホームレスになったのは『ラフルさんも』だ。よく考えなくても分かるじゃないか……自分の楽観的な考えを年下の少女諭されるなんて。
「……すみません、ラフルさん……自分のだけが全て被ればいいと、《《僕だけの問題》》だと勝手に決めつけてました……一緒に住んでるラフルさんのことを忘れていました……本当に軽率でした」
自分の軽率で愚かな考えに僕は頭を深く下げる。それを見たラフルさんは慌てる。
「い、いえ、私はフウタさんがまた自分から不幸になりに言ってるのが許せないだけで、私自信がホームレスになることは別に構いません。それに私がもっとしっかりしていればフウタさんをこんな目に合わせることなんてありませんでした……」
何故かラフルさんも頭を下げ、謝罪をしてくる。なにも悪くないラフルさんに負い目を感じさせてしまうなんてほんと僕は何をやってるんだ。
「わたしゃはなにを見せられとるんじゃ?」
互いに頭を下げる姿を見たピンコさんは呆れたように溜息を吐く。それを聞いたラフルさんは青筋を立てると顔を上げピンコさんに笑顔を向ける。
「誰のせいだと思っているんですかぁ~?」
柔らかい語尾とは裏腹に見えないはずの怒りのオーラが見え、どう見ても怒っているのが分かる。
「さて、まずはアナタのご家族に報告をし、家族総出で責任を取ってもらいましょうか」
「ぎょっ!?」
実に生々しい責任の取らせ方だ。それを聞いたピンコさんはぎょっとし、いや、口でも言ってるが、顔を青くさせる。
「そ、それだけは勘弁してほしいのじゃ!責任はわたしゃが取るからどうか家族にはおばあちゃんには言わないでほしいのじゃ!」
家族という言葉に急に大慌てで懇願してきたので、どうしたのかと思って聞くと震えながら答える。
「昔、イタズラをして、おしおきでおばあちゃんに三日間ハムスターにされたことがあるのじゃ……」
ハムスターってこの世界にいるの?僕は首を傾げる。
「ハムスターってかわいいじゃないですか」
「なにを言っとるのじゃ!?」
僕の言葉にピンコさんは声を荒げる。
「ハムスターじゃぞ!?あの小さな生物じゃぞ!?それにされたんじゃぞ!?三日間じゃぞ!?」
じゃぞじゃぞうるさいな……と思ったが彼女が本気で震えてるもんだから逆に心配になる。
「三日間ハムスターの檻に入れられて、夜に「今日も一日楽しかったのう」と笑顔で言われてみい!」
確かに「へけっ☆」なんて言えないな。彼女のトラウマエピソード聞いた僕はラフルさんに顔を向ける。
「まあ、彼女本人が責任取ってくれるみたいなので、おばあちゃんにいうのは勘弁してあげませんか?」
「フウタさん、ついさっき言った傍から……」
さっき注意をされてしまったばかりなのに温情を掛けようとする僕にラフルさんは大きな溜息を吐くと呆れた様に答える。
「わかりました……そういうことでしたら、彼女だけに責任を取らせましょう……まったく……フウタさんは甘すぎます」
ラフルさんの言葉に僕は乾いた笑いを返すしかなかった。
「……甘いのは、私だけにしてください」
「はい?」
「いえ、なんでもないです」
なにかぼそりと呟いたが、聞き返すと少し強めの口調で返されてしまった。そんな思考を遮る様に突然手を握られる感覚がして顔を向けるとピンコさんが涙目で僕の手を握っていた。
「本当になんて優しい人なのじゃ!本当に感謝なのじゃ!是非とも責任は取らせてもらうのじゃ!住み込みでご奉仕じゃ!」
「住み込みって、家無いんですけど?」
彼女の言葉に冷静にツッコムとラフルさんがとてもご立腹な顔をして僕とピンコさんの間に立つ。
「フウタさんには、派遣女神の私がいるので、アナタはさっさと責任を取ってください」
派遣女神としての仕事を取られそうになっているからか、先程よりも怒りオーラマシマシである。そんなラフルさんを気にせずピンコさんは僕に質問を投げかけてくる。
「そういえば、フウタさんは歳はいくつじゃ?」
「え?25ですけど」
突然、歳を聞かれるものだから反射的に返してしまうが、合ってるよね?この世界にきて3日歳と答える訳にいかないので前世の歳を取り敢えず答えておく。
「やはり年上じゃったか、わたしゃは19じゃ。別に敬語なんていらんし、これからの付き合い敬語じゃ喋りにくいじゃろ」
19って、まあまあ歳離れてたな。
「まあ、それもそうです……そうか。わかった、お言葉に甘えて敬語は抜かせてもらうよ」
ピンコさんの提案にありがたく乗らせてもらうと、ラフルさんはとても不満そうな顔でこっちを見る。
「フウタさん、私も溜め口でもいいんですよ?」
「いえ、ラフルさんは女神様なので溜め口なんて恐れ多いいですよ。そんなことできません」
「わ、私は気になりませんよ?」
「僕の礼儀というプライドが許しません」
神様に敬意を払わないなんて礼儀知らずにも程がある。
「逆になんでラフルさんは敬語なんですか?それこそ僕は気にしませんけど」
「それこそ私のプライドが許しません」
「では、この話はここまでです」
僕の言葉にラフルさんは納得いってないのか、何か言いたそうに身体を揺らして唸っている。
「なんじゃ?めんどくさいカップルかのう」
「いや、カップルって……それはありえないよ」
「!?」
本当にカップルだったらいいんだけどね……相手は女神。そんなことはあり得ない。前世の彼女いない歴年齢の僕によく効く。良い人ですごい優しいんだけど、《《恋人としてはない》》と言われ続けた僕には本当に無縁の言葉だ。まあ、優しさじゃ世界は救えないのと同じだ。……ああ、自分で思って哀しくなってきた。……ちくしょう、目にゴミが染みるぜ。僕は天を仰ぐ……鳥が楽しそうに飛んでるぜ。
「アダダダダダダダダ!割れるッ!いやッ!グダゲルのじゃあ!」
突然の叫びに僕が顔を下げると、ラフルさんは何故かピンコさんにアイアンクローを決めていた。その姿を見て、僕とのカップルがそんなに嫌だったのかとめちゃくちゃ泣きたくなる。
「ラフルさん、ホントすいません……そんなに嫌なら、いつでも天界に帰ってもいいですから」
僕のその言葉にラフルさんは手にさらにチカラを込める。
「ウヴァアアァアアァーーーーーッ!!」
やばい。ガチの断末魔だ。のじゃを言う余裕すらない。
僕は慌てて止めに入った。




