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第3話 虹色の街と派遣女神

 森の木々が風に靡く、本来ならその光景を中から堪能していたものを僕達は空中から眺めながら移動している。そう、僕とラフルさんは飛んでいるのだ。


 小鳥や空を飛ぶ生物達はその異様な光景に驚く様子はない。恐らくこの世界では珍しいことではないようだ。


 沢山の伐採した木を細かくして紐でしっかりと結び、背中に背負いバランスをとる。慣れてない空中浮遊に少し冷や汗を流す。正直、空を飛ぶのに憧れてたのでかなりテンションが上がっているが、本当にこんなことができるなんてという非現実的なことで頭が混乱している。


「フウタさん、大丈夫ですか?もう少し慣れるまで代わりに持ちましょうか?」


 僕の隣で当然の様に飛んでいるラフルさんは自分の荷物もあるのに気を使ってくれる。ラフルさんが飛べているのは、『女神だから』らしい、いや、理由適当でしょ。


「大丈夫です。ラフルさんも沢山荷物持ってるのに僕のも持たせたら、なんか男としてダメだと思います」

「そうですか」


 正直、持ってほしい気持ちがないわけではないが、男としてのプライドがそれを許さない。そのまま談笑をしながら飛んでいるとラフルさんが前を指さす。


「フウタさん、見えてきました。あそこが都市の【アルコバレーノ】です」


 前方を確認すると、森の抜けた先に大きな街の様なものが見えた。中世ヨーロッパみたいなはたまた少し和風な感じも見て取れる、なんとも例えようの難しい風景だ。


 街に着くと僕達は早速木材の換金所的なところに向かい、ラフルさんが手続きをさっとしてくれてあっさりとお金が手に入った。


「へえ、まあ、お金はなんかイメージ通りって感じですね」


 僕は財布代わりの小袋に詰められたコインを確認する。袋の三分の二ぐらいの量を換金できたようだ。


「これってどのくらいの量なんですか」


 正直、コインだけでは価値が分からないのでラフルさんに聞くと少し考えた仕草をして答えてくれる。


「そうですね。フウタさんの元いた世界との価値を比べるのは正直難しいですが、1コイン500エンと言ったところでしょうか?」

「なんとも絶妙な。1コイン500エンってことは……見えてる範囲でざっくりいうと、5万エンあるかないかぐらいですかね」

「その認識で差異はないかと」


 大金って訳ではないけど、前世で14時間働いて、週6勤務で20万なかった身としては正直涙が出る。


「この世界の金銭感覚としては、食事に1コインから多くて6コイン、雑貨などで2コイン、街の宿の一泊3コインと言ったところでしょうか」

「へえ、そうなんですね。宿は安いですけど、基本の金銭感覚は同じなんですね」

「はい」


 僕の言葉に一言返すと頷く。なんというか、まだ、数日だけど質問攻めで申し訳なくなってきたな……よし。


「なにかほしいものありますか?」

「え?」


 突然の言葉にラフルさん目を少し見開いて驚く。


「まあ、2人のお金ではあるんですけど、なにか少しでもお礼がしたくて」

「いえ、そんな」

「お礼をさせてください」


 遠慮をするラフルさんだったけど、僕の素直な気持ちを伝えると少し困った顔をしながらも頷く。


「わかりました。城下町を見て考えてもいいですか?」

「ええ、もちろん」


 ラフルさんの言葉に僕は当然承諾して僕たちは城下町に向かった。


 城下町に着くとそこはかなり人で賑わっていた。道が通れない程というわけではないが、人の多さに僕は少し身体が震える。僕は正直人混みが苦手だ。それに学生時代にトラウマがあり、さらに社畜時代にそれは加速した。


「フウタさん、大丈夫ですか?やはりやめておきましょう」

「い、いえ、大丈夫です!言い出したのは僕なんですから」


 少し顔を青くして冷や汗をかいてる僕を見たラフルさんは心配そうにいってくれるが、ここで引いたら言い出しっぺの癖にダサいにも程がある。僕は慌てて大丈夫だと見栄を張る。


「そうですか」


 僕のバレバレの見栄にもラフルさんは察してくれたのかそれ以上なにも言わない。


 その後、僕たちは城下町を歩き、美味しそうな香ばしい香りのする謎の串焼きを見つけてそれを買い食べ歩く。


「………………」


 すると、ラフルさんは何かを見つけ立ち止まった。


「……?」


 僕は目線の先を確認すると、そこにはパン生地に白と黄色の甘そうなクリームが挟んである。僕の世界でいうシュークリームのような美味しそうな食べ物が売っていた。ラフルさんはそれを見つめ分かりやすく目を輝かせヨダレを垂らしている。


「食べたいですか?」

「……!?い、いえ!」


 僕が問いかけるとラフルは身体がを震わせ同様するが、あまりの分かりやすさに僕はクスリと笑う。


「僕は食べたいですね」

「え?」


 僕の言葉にラフルさんとてつもない速さで僕に振り返る。とてももの欲しそうな顔だ。


「ラフルさんも食べますか?」

「は、はい!是非」


 ラフルさんは嬉しそうに頷くと僕の隣を駆け足で着いてくる。シュークリームのようなものを2つ買い少し離れたベンチで並び座る。


「いただきます」

「い、いただきます」


 僕が手を合わせるとラフルさんも手を合わせ紙袋からシュークリームを取り出し、僕に渡してくれる。僕はお礼を言って受け取るとラフルさんは自分のを取り出した後、何故か暫く固まっていた。なんとなく察した僕はラフルさんに言う。


「気にせず先に食べてください」

「え?」

「ほら、遠慮しないで」


 僕が食べるのを待っていたラフルさんに少し強引にいうと、戸惑いながらも口に含む。


「………………っ!」


 シュークリームを口にしたラフルさんは目を見開き輝かせ美味しそうに食べる。それを確認すると僕も一口食べる。僕の知っているシュークリームの生地とは違って少し厚みの生地が甘いクリームをさらに美味しくしていた。


「おいしい」

「はい、とっても」


 僕の素直な感想にラフルさんも一言返し。僕の食べる姿を少し確認した後、シュークリームを紙袋の上に置いた。


「ちょっと待っていてください」

「え?は、はい」


 突然の立ち上がった彼女の言葉に僕は空返事を返してしまうが、それを聞くとラフルさんは小走りで何処かに行ってしまった。


「行ってしまった」


 なんて独り言を呟き、僕はなんとなく周囲を見回すと、あるモノが目に入った。


ーーーーーーーーーーー


 数分後、ラフルさんはドリンクのカップの様なものを両手に持って足早に帰ってきた。


「おかえりなさい」

「お待たせしました」


 ラフルさんは僕の前に立つと片手のコップを僕に渡してくれた。


「あ、ありがとうございます」


 僕はそれを反射的に受け取ると首を傾げる。その中身は黒色の苦味のあるいい匂いの液体が入っていた。


「この世界のコーヒーの様なものです」

「え?」


 僕は目を見開くとラフルさんは答える。


「フウタさんが甘いものが『あまり得意ではない』ことぐらい知っています」

「……!?」


 確かに甘いものは嫌いではないけど、僕はコーヒーと一緒でしか甘いもは基本食べなかった。なんでラフルさんはそれを知っているんだろう?


 ラフルさんは顔を反らしながら言葉を続ける。


「フウタさんの前世の人生はこの世界に来る前に確認しました」

「確認?」

「はい、フウタさんが天界で落ち着くまでにざっくりとですが、天界ログを確認して大体は把握してます。どんな方なのか、どんな人生を歩まれたのか」

「……そ……そうなんですね……全て知ってるんですね」

「………………はい」


 全てを知られていることに僕はかなり衝撃を受けてしまい絞り出すような声しか出なかった。その声を聞いたラフルさんは罰が悪そうに顔を下げる。僕は自分でも張り付いた笑顔をしてしまっていることを感じる……。


「で、ですから」

「……?」


 何かを言いかける彼女に反射的に顔を上げると、今度は僕の方をしっかりと見つめていた。


「フウタさんの『第二の人生』を私が全力でサポートさせてください」

「!?」


 ラフルさんはこっちを力強く見つめる。いつも淡々としててクールな彼女と違って想いの籠った言葉だった。


 僕はその温かい想いに目頭が熱くなるのを感じる。慌てて顔を下げ流れそうになるそれを手で拭く。


「まったく、僕ってこんなに泣きむだったのかよ。ホント泣いてばかりじゃないか」

「もう我慢しなくていいんです。その涙がいつか嬉し涙になるといいですね」


 涙を流す僕にラフルさんは慈愛の満ちた声と表情を向ける。


「ラフルさん、これ」

「え?」


 僕は涙を流しながらも小さな紙袋を彼女に渡す。彼女は少し疑問思いながらもそれを受け取り中を確認すると目を見開く。


「これは?」


 袋から取り出したそれは青色の石の埋め込まれたペンダントだった。


「本当はちゃんと渡したかったんですけど、たまたま近くでラフルさんに似合いそうなペンダントを見つけたんです」

「………………」


 彼女は静かにそれを見つめる。


「すみません。今はこんな安物しか買えないですけど、どうしてもなにかプレゼントしたくて、もし、いらないなら捨ててもらっても……」

「捨てません」

「え?」


 僕の言葉をラフルさんは遮る。


「捨てるわけないじゃないですか、これでいい……いえ『これがいい』です!」

「!?」


 ラフルさんは綺麗な瞳で僕を見つめる。


「本当ありがとうございます。フウタさんからのプレゼント、『一生大事にします』」


 胸元でペンダントを優しく握り、美しい瞳の光る笑顔を僕に向ける。


 ラフルさんの顔は美しく太陽の光に照らされ、まるでこの世のものとは思えない程の美しさだった。それは彼女が本当に女神だと確信するのにはとても足りすぎる程に……そして光と共に彼女の口元の白いモノがキラリと光る。


「ラフルさん」

「はい」


 慈愛に満ちた顔で彼女は返事をすると、僕は自分の口元を指さす。


「?」


 はじめは首を傾げていたが、暫くしてその意味を理解したのか慌てて自分の口元を拭い。顔を真っ赤にした。

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