第24話 フウタの忘れられない味
いつもの楽しい食卓を終えた僕は、お風呂を済ませ、就寝の準備をして本を読んでいると、部屋のドアが叩かれた。
………なんか、デジャブを感じるな。
なんて思いながらも、部屋のドアを開けると、フラウムさん………ではなく、ラフルさんが立っていた。
「え?ラフルさん?」
意外な来客に僕は目を丸くする。
「大広間まできてください」
「え?はい」
彼女にしては珍しく強制的な言い方だ。断る理由もないので、僕は大人しく大広間についていく。
「少し待っててください」
「はい」
席に座らされ、ラフルさんは厨房に入っていった。
なんだ?食後のデザートでも出してくれるのか?
ちょっと、わくわくしながら待っていると、なにか美味しそうな匂いが流れてきた。
………この匂いって………いや、まさかな。
僕は、その匂いが気のせいだと、考えを払うと、ラフルさんがお皿を持って出てきた。
それを僕の前に出すと席に座らずにそのまま横に立つ。
「………………」
僕は、そのお皿の中身を見て、言葉を失う。
「………………こ………これって」
何故だか鼓動が早くなる。
その香ばしくも少し甘味を感じさせる匂い。だけど、大きさは小さく子供の口でも一口で食べれそうな大きさ。
「………え?………あの………これ」
必死に言葉を探すが、発作にも近い鼓動の早さで言葉がでない。
そんな僕にラフルさんが優しい笑顔を向ける。
「『お誕生日おめでとうございます』」
「!?」
その言葉に目頭が熱くなる。
「誕生日………そうか、もうそんな時期だったんだね」
「はい」
ラフルさんは頷き、言葉を続ける。
「フウタさんが、前世で『一番大好きな思い出の味』です」
「………うん」
彼女に対して敬語を忘れてしまうほど、僕は動揺していた。
「いただきます」
箸を手に取り、ラフルさんが出してくれた『かーさんの唐揚げ』を口にする。
口に香ばしさが広がる。少し硬くて薄めの味だけど、その丁度いい柔らかと味付けに懐かしさが、身体全体を震わせた。
気付けば、目の前が見えなくなった。なにかが止められないぐらい溢れた。机にいくつもの滴が零れていく。
「………………………うまい………うまい」
シンプルな感想、でも、それを言うだけでも、苦しいぐらい涙が止められない。
食卓にたまに出る、学校の行事でお弁当がある時に作ってくれる、僕とオニーの誕生日に必ず作ってくれる。かーさんの唐揚げ。僕の『一番大好きな思い出の味』、『二度と会えないと思っていた味』。
良い歳の大人がだらしなく嗚咽を零す。思い出さないようにしていた。でも、忘れたくないそんなぐちゃぐちゃな気持ちが心を抉る。
「なんで………なんで………思い出さないようにしてたのに………思い出すと苦しくなるから………でも、『忘れたくない』」
気持ちを落ち着かせる為に口でも吐き捨てるが、余計に哀しさが襲ってくる。それを言ってしまったせいでもう会えないという残酷な事実が襲ってくる。
「ああ………会いたいよ………ちくしょう」
何度も手で顔を拭き、流れるものを抑えようとするが、止められない。
「『忘れないでください』」
「え?」
ラフルさんの言葉にぐちゃぐちゃの顔を向けると、慈愛に満ちた顔で僕を見つめていた。
「確かに、残酷ですが、もうフウタさんの本当のご家族には会えません………ですが、『覚えていることはできます』」
「!?」
覚えていること。
「それはきっと辛い事だってことも理解しています。でも、私は、フウタさんに大切な家族や友人との思い出を『忘れてほしくない』んです」
辛くても覚えていてほしい。ラフルさんは僕の眼の奥まで見つめる。
「そうじゃ!」
突然の叫びのような声に僕は振り返ると、ピンコさんとフラウムさんが目の下を赤くして立っていた。
「忘れなくていいのじゃ!イヤなことを忘れて、思い出を忘れて笑ってるフウタさんなんてわたしゃはそんなのイヤなのじゃ!」
「そうですわ!あっちの家族もこっちの家族もどっちも家族ですわ!家族を大切にしないフウタさんなんてフウタさんじゃありませんわ!」
どこから聞いていたのか、こんな泣いてるところを見られてしまい正直恥ずかしい気持ちになる。
「はは、めちゃくちゃダサいところ見られちゃったね」
「なに言っとるんじゃ、かっこつけとるお主なんてお主じゃないのじゃ」
「そうですわ!表裏のない素直な感じがフウタさんですわ!」
ピンコさんは褒めてるのか分からないが、2人は励ましの言葉を送ってくれる。
「それより!」
フラウムさんは急に距離を詰めてきて、ジト目で顔を近づけてくる。
「『誕生日』なんて聞いてませんわよ!」
「はは、ごめん、僕自身も忘れてて」
忘れていたことは本当なので、笑って誤魔化すように言うしかなかった。
「私は覚えていましたけどね」
ラフルさんは何故かドヤ顔で2人を見る。
「折角の誕生日、後数時間で日が変わってしまいますわ。今からなにかプレゼントも間に合いませんし」
「いや、気にしなくていいよ」
「そうはいきませんわ」
気にしなくてもいいという僕の言葉にフラウムさんは引き下がらない。そういえば、意外と頑固だったな。
「なら、いい方法があるのじゃ」
ピンコさんがなにかを思いついたように無邪気に笑い、僕たちは首を傾げる。
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ラフルさんとフラウムさんがピンコさんに連れられて数十分程たった。
僕は思い出の味を食べながら待っていると、3人が厨房から出てきた。
「待たせたのう」
ピンコさんが後ろにいるラフルさんを背中で隠しながらニヤニヤとした顔でやってきた。
「見てください!」
フラウムさんもウキウキと楽しそうにしている。
「これが『私たち3人からの誕生日プレゼント』です」
2人は道を開け、背後のラフルさんの持っているものが姿を現す。
それは、フラウムさんのクア・レイにピンコさんの大根の煮物とラフルさんの作ってくれたかーさんの唐揚げがトッピングされてるものだった。
「これぞ、『我が家のクア・レイ』じゃ!」
ピンコさんは親指を立ててキメ顔をする。
「思い出の味を新しい思い出にしてもらう為にワタクシたちの気持ちを込めて作りましたわ!」
「新しい思い出」
「はい、フウタさんの本当のご家族には勝てないかもしれませんが、私たちはもう家族も同然です。これから新しい思い出の味をみんなで作っていきましょう」
みんなの言葉に僕はまた目頭が熱くなる。
「………うん………うん!………本当にありがとうみんな、『最高の誕生日』だよ」
僕の心からの感謝にみんな顔を見合わせ飛び切りの笑顔を零す。
「今夜は寝れませんね」
「え?」
「おう、今夜は飛びっきり遊ぶのじゃ!」
「いいですわね!皆さんで朝まで語りつくしますわ!」
3人の言葉に僕は少し乾いた笑いをするが、たまには悪くないかなと思った。
そして、その日は沢山騒いで、沢山話した後、気付いたらみんな寝ていた。




