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第22話 二度と会えない味

 薄暗い狭い車内、白シャツ黒ズボンの男性が力なく椅子の背もたれにもたれかかり、バックミラーを見つめる。そこに映る彼の眼は光がなく深い黒に染まっていた。


 ………………………。


 僕の眼ってあんなに死んでたっけ?………………………まあ、よくショウくんに昔から僕の眼は死んでるって言われてたもんな………………………正直、それを言われるのは、とても嫌だった。


 ………………………そろそろなにか食べないと………………………ああ、カラダが重い………………………。


 僕は鞄の中から風呂敷に包まれたものを取り出す。


 ……………本当にありがたい。 今日は朝4時に家を出て、拒否権のない遠方の新店舗の応援、ごはんは自分でなんとかするからいいと言ったけど、かーさんは僕よりも早く起きてお弁当を作ってくれた。


 ………………………本当に……本当にありがたい。


 今日は本当に最悪な日だ……お客さんからの暴言。新店舗の上司はお客さんの対応は全てこちらに丸投げ、会社はこっちになにも情報を寄越さないから、なにも分からない、それでも頑張って対応した。混雑する車の対応ができていないと言われ、人に寄ってはただの暴言。店内の人の対応が悪いと苦情。同僚は適当適当。エトセトラエトセトラ。


 そんな状況でごはんの確保なんてできるわけがない。


 何度でも思う。本当にありがたい。


 今いる店舗でも、上司はクソで実質僕が店舗を回している。ほぼひとりで店舗を回すっておかしいだろ。お客さんにはとてもよくしてくれて毎日感謝をしてくれる人もいて、僕の人柄で来てくれる人もいる。おにいさんがとてもいい人でおにいさんと話たくてきてると言ってくれる人もいる。それは本当に嬉しい………………………だけど、もう限界だ。


 後数日の我慢だ……………。


 もう随分と前から精神は壊れて、怪我もして治らない。とても痛い。それでやめることを決意して辞表を出したが、やめれるのは『三か月後』で、辞表を出した時に上司からネチネチ言われたな………………………クソが。


 それも後数日……。


 風呂敷を解き、お弁当を膝に乗せる。そのお弁当箱と箸は、僕が昔から大好きなかわいいキャラクターのお弁当箱と箸だった。それを見て自然と笑顔が零れる。


 まったく、何歳だと思ってるんだか。


 だけど、とても嬉しい。


 蓋を開けると、お惣菜が姿を現す。ご飯はラップで包まれたおにぎりが一個あった。


 中には、お手軽のほうれんそうの炒め物。ポテトサラダ。ミートボール。ナゲットにケチャップがついている。


 そして、最後に唐揚げ。              


 はは、相変わらずの茶色弁当。


 僕は、箸で唐揚げを掴む。僕のかーさんの唐揚げは他の唐揚げとは一味違う。大きさはサイコロステーキサイズの一口サイズだ。なぜ小さいのか昔聞いたら、小さい僕たちが食べれるサイズにしたのと、数を多く作れるからだという。僕はこの唐揚げが昔から大好きだった。


 昔、友達『だった』とても嫌なやつが僕のお弁当の唐揚げを気に入ってよく奪われてたっけな、それをかーさんに言ったら、わざわざそいつの分まで作ってくれて小さいお弁当箱を渡してたっけな。まったく、僕のかーさんはどんだけ優しいんだか。まあ、正直僕はそんなかーさんが好きで、そのクソ野郎に心の中でお前の親と違って僕のかーさんの方がいいぞざまあみろって思ってたけな。……はは、マザコンが過ぎるかな。


 なんてくだらないことを考えながら、唐揚げを口に入れる。


「………………」


 冷めてて少し硬い……けど、淡泊だけど、昔から食べてるこの味が本当に大好きだ。


「………………うまい」


 膝にいくつもの水滴が零れた。






ーーーーーーーーーーー






「ただいま」

「おかえり!フウくん!」


 玄関を開け、リビングに入ると、お皿洗いをしているかーさんが出迎えてくれた。


「フウくん、ごめんね!」

「え?」


 家に帰ってそうそう謝られたので、僕は目を丸くして返す。


 かーさんはなにかを持ってきて僕に見せる。


「お弁当のおにぎりのラップの上にこれ巻くの忘れちゃった」


 見せてきたのは、お弁当箱と同じのキャラクターの包み紙だった。


 ……ふっ……まったく、本当に何歳だと思ってるんだよ。


 水洗いや家事で荒れてる手が目に入る。


「いや、いいよ」


 僕は、「でも」と付け足し、いつも伝えてる言葉に、いつも以上の想いを込める。


「『いつもありがとう』」






ーーーーーーーーーーー






 窓から温かな光が差し込み、僕の顔を照らす。だが、照らされて温かいはずの顔は冷たかった。


「………………?」


 何故、冷たいのかと顔に手を当てると、濡れていた。


「………!?」


 反射的に枕も見ると濡れていた。 


 


「………………」





 なんで『今頃』なんだろう。






 僕は、目元を手で拭い、布団から身体を起こすとしばらく固まる。


 そして、なにを思う訳でもなく、支度をすると部屋を出た。


 いつもの日常に挨拶をしに。

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