第20話 取り戻せ楽しい食卓
「はじめまして、赤三鳥風太といいます」
貴族の食卓にとても似つかわしくない呑気な声に周囲の人達は呆気に取られている。この無礼者は誰かと何処から入ったのかとざわつきはじめる。
「フウタさんッ!?」
フラウムさんは突然現れた僕に目を見開き驚く。
「なにやっとるんじゃ!意味なくなるじゃろう!」
「ごめん」
「ごめん、じゃないじゃろう」
「やってしまったことはしょうがないです」
ピンコさんは慌てて声をかけるが、ラフルさんは冷静にキーホルダーのスイッチを切り、姿を現しレンズを取る。ピンコさんも溜息を吐きながら、姿を現す。
「皆さん!」
2人の登場にもフラウムさんは驚くが、少し嬉しいそうな表情を受かべるが、すぐに顔を青くする。
「み、皆さん!すぐに逃げてください!今すぐ!」
フラウムさんは慌てていうが、彼女が言い終わる前に十数人の使用人が僕たちを囲んでいた。
「……ちょっとまずい?」
「当たり前じゃろう!ノープランにも程があるのじゃ!じゃが、ここまできて引くわけにはいかぬ!」
僕の軽率な動きにいきなりピンチになってしまう。ほんとごめん!………だけど、あんな顔をまたされて黙ってられなくて。
なんて心の中で言い訳をしているとラフルさんが前に立つ。
「少し手荒になりますが、仕方ありませんね」
ラフルさんは右手を少し上げると手が光りだす。
「待て」
「!?」
突然の静止言葉に全員の視線が向く。
フラウムさんの父親が冷静に飲み物を一口飲み。コップを机に置くと、使用人に言葉を向ける。
「全員下がりなさい」
「!?」
彼の言葉に使用人は驚きながらも動きを止める。
「フラウム、客人だ。お茶でも淹れてあげなさい」
「……!?は、はい!」
ーーーーーーーーーーーー
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
席に座った僕たちの前にフラウムさんは紅茶を出してくれる。
「………………」
正直、状況が読めていない………僕たちが現れたことには少し驚いたような反応を見せていたが、その後の冷静な動き、なにか余裕を感じさせる。やはり貴族だから?いや、そもそも貴族だから余裕があるって安直過ぎるか。
「大丈夫だ。なにも入れてないし、寧ろそんなこと私が許さん。それに信頼して貰う為にフラウムに淹れさせた」
警戒心を緩めない僕たちにそう言い放つと淹れた紅茶を一口飲む。
「まあ、そうじゃな。わざわざ自分の娘に淹れさせたんじゃ」
ピンコさんも警戒しながらも紅茶を飲む。ラフルさんは静かに目を閉じていた。
使用人は全員下がらせ、本当に僕たちだけになった。
「家族団欒の場所に無断で入ってきたことは目を瞑ろう」
「それは、本当に申し訳ありません」
「謙虚だね。君は」
フラウムさんの父親はふっと笑うと紅茶を眺め「それに」とラフルさんを見て言葉を続ける。
「『女神』に暴れられては、こちらとしても不都合なのでね」
「!?」
ラフルさんが女神だと知っているのか?
当の本人は冷静に彼を見つめる。
驚く僕たちにまたも余裕そうに笑う。
「失礼。こちらも名乗ってなかったね。私は『イエロウ・フツ・カレエ』。流石にこれは言わなくていいだろうが、フラウムの父だ」
貴族の振舞だろうか、とても丁寧に話してくれる。
挨拶されたからには、礼儀として返さないといけないので、僕たちも名を名乗る。
「改めてまして。赤三鳥風太です」
「ピンコ・ピシャリ・ピカリエですじゃ」
「ラフル・ル・レインです。『女神』です」
何故かラフルさんは女神を強調する。そして、こちらを見ると、「見ましたか?女神のチカラで場を収めましたよ」とでも言いたげにドヤ顔を向ける。
しかし、沈黙が流れ緊張が走る。
「さて、君達は何用かな?」
沈黙を破ったのはイエロウさんの言葉だった。
僕たちがここにきた理由は見当がついているはずだが、こちらの口から聞きたいようだ。
「フラウムさんに戻ってきてほしくてきました」
正直になにも隠さずに告げると、イエロウさんはふっと笑う。
「素直な子だね」
「ありがとうございます」
「はっはっは、ありがとうね。面白い子だ。だが、いい子ちゃんだけでは世の中生きていけないよ」
「………はい。よーく知ってます」
「ほう」
僕の返しが意外だったのか、片目を少し見開く。
「でも、性格は変えれません」
自傷気味にいうと、イエロウさんは軽く笑顔をつくる。
「いい性格してるね」
「よく言われます」
イエロウさんは「だが」と言葉を続ける。
「悪い性格ではないようだ」
「ありがとうございます」
僕たちの会話が理解できないのか、ピンコさんは目を丸くして僕とイエロウさんを見る。
安心しろ。僕も分かってない!
褒められてるのか貶されてるのかすら分からない。
いや、相手のペースに飲まれるな。
「君達は私が何故フラウムを連れ戻したか理解しているかい」
「はい」
「まあ、そうだろうね。ここで知らないというのは、本当の馬鹿だろう」
とても遠回しな言い方だけど、それを知っててなんできたってことだな。
「フラウムさんのカレーが食べたいからです」
「え?」
イエロウさんがはじめて困惑したような表情を浮かべる。
シンプルな理由だったからか?
「かれー?」
そっか、カレーで通用しないんだった。
「クア・レイのことですわ」
「!?」
フラウムが答えると、目を見開いて驚く。今までで一番の反応で僕たちに少し緊張が走る。
「………作ったのか?クア・レイを?」
「………………はい」
2人は一瞬、互いに見つめ合うが、フラウムは顔を反らす。
またも沈黙が流れる。
「………………」
僕は、目だけを動かし周囲を確認し、壁にある1枚の写真を見る。
………………………。
「………皮肉なものだな。『家族の象徴』であるものが、『娘を連れ戻しにきた』と」
「え?」
その言葉にピンコさんが声を漏らす。
………………………やっぱりそうか。
「お母様のクア・レイ程ではありませんが、皆さんに振舞っています」
確信があった訳じゃないけど、あの壁の写真みたいなもの、それにここに来るまでに屋敷内で数枚見た似たようなもの、それに写る数人の人達。多分あれは家族写真のようなものだろう。
恐らく、2人の反応的に………。
「…………………」
さすがにピンコさんとラフルさんも気付いたようだが、口を出せる空気ではなかった。
「僕は、フラウムさんのカレーが食べたいです」
「!?」
明らかに空気の読めていない。まあ、そんなことは僕自身が分かってる。だけど、敢えて一番のバカになろう。
「食卓っていうのは、みんなで囲んで、みんなで話して、みんなで楽しく過ごす場所です。だから、僕は、フラウムさんのカレーをフラウムさんと一緒に、みんなで食べたいです」
いきなりのハチャメチャな発言にみんな何を言っているのかという顔をする。
「僕は不幸で、みんなも不幸にしちゃう、ある意味、厄災かもしれない。でも、本当に本当に本当に辛いのは、一番の不幸は、家族や友達とご飯を食べれないことです」
とてもデリカシーのない発言。家族を失ったであろう人の前でいう言葉ではない。
「僕はもう、かーさんとも、とーさんとも、オニーとも、ショウくんとも、ワタルくんとも、ミズキくんとも、もう絶対にご飯を一緒に食べることができなないんです」
突然の自分語り、誰かも分からない知らない人物の名前をつらつらと並べる。
「だから、もう失うのはイヤなんです」
まるで子供の言い分だ。自分が一番分かってるよ。情けなくてワガママで自分勝手だってことくらい。
「フラウムさんのカレーを毎週食べさせてください」
「!?」
その発言にみんな目を見開き驚愕の表情を浮かべる。
僕はその言葉に嘘偽りはない。シンプルに思ったことを言っただけだ。
「………嘘じゃろ」
ピンコさんに至っては顔を引きつらせている。
「………………」
ラフルさんはなんともいえない顔でこちらを見ている。
「………え………え?」
フラウムさんは面を喰らったような顔をしていたが、徐々に顔が赤くなる。
「えええええっ!?」
「うわあっ!?びっくりした!?」
突然、叫び出したので、僕はカラダをビクリとさせ驚く。
「なんでお主が驚いとるんじゃ!?」
逆にピンコさんに驚かれる。
「いや、なんでって今まで通りフラウムさんのカレーを毎週食べたいって言っただけだけど?」
「お主というヤツは!お主というやつはーーー!!」
「ぐええっ!?」
ピンコさんは机から立ち上がり、僕の胸ぐらを掴み激しく振り出したので、脳が揺れる。きっとシェイクスピアもこんな気持ちだったのかもしれない。
「………………はあ」
ラフルさんに至っては大きな溜息をしている。
女神のクソでか溜息、縁起が悪そうだ。
なんて僕らがめちゃくちゃ騒がしくしていると、フラウムさんはなにかを決心したような顔をし、席を立ち、イエロウさんの前にいくと、頭を深く下げる。
「お願いします。ワタクシはみんなと『友達と』食卓を囲みたいです」
「………………………」
イエロウさんは娘の言葉を受けるが、なにも返さない。
数秒、頭を下げ続けると沈黙が破られた。
「我が家と縁を切ることになってもか?」
「はい」
頭を上げず、真っ直ぐ言葉を返す。
「『大事な友人達の居場所を失ってもか?』」
「はい」
今度は迷いなく言い放つ。
「………………」
「好きにしなさい」
イエロウさんは淡々と言葉を返し、それを聞いたフラウムさんはゆっくりと頭を上げる。
「フラウム、良き友ができましたね」
「はい」
今までの張り付いたような緊張する笑顔ではなく、優しい笑顔をフラウムに向け、フラウムさんは瞳を潤ませ笑顔を返す。
「私にも今度作ってくれないか?」
「是非!」
フラウムさんの瞳から滴が流れた。
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「ただいまー」
いつもの大広間に呑気な声が響いた。
「まったくあれだけのことをしておいて呑気なやつじゃ」
ピンコさんは呆れながらも張り詰めた緊張から解放されてカラダを伸ばした。
「まあ、引き続きここに『住める』んですからいいじゃないですか」
そう、結論から言うと、屋敷から追い出されることも屋敷が処分されることもなかった。イエロウさんが気を利かせてくれてそのまま住んでいいとのこと。
多分、わかってたんだな。そうじゃなきゃこんなあっさり承諾してくれる訳ない。
僕は、大人の交渉を見てどっと疲れを感じた。
ふと、後ろを見るとフラウムさんが何故か家に入らず、入り口で立っていた。
「なにしとるんじゃ?」
2人は不思議そうにするが、なんとなく入りにくいんだなと感じた僕は彼女に向き直ると、『当たり前の言葉』を投げる。
「『おかえり』、フラウムさん」
「!?」
僕の言葉にフラウムさんは瞳を潤ませ無邪気な笑顔を返す。
「『ただいま』」




