第2話 異世界生活とモーニングクライ
快晴の空の下、小鳥の囀りが聴こえ、窓から照り付ける日差しに当てられ僕は目が覚める。ベットから上半身を起こし伸びをする。固まっていた身体がほぐれて夢から現実に覚める感覚を感じる。
異世界に来て数日、僕はかなり充実した生活を送れていた。この世界にはじめて降り立った場所はこの家の前だった。なんでも派遣女神特典で初回家が無料だそうだ。え?マジ?ラッキーとも思いつつ、ほぼ森の中で街からも少し離れた場所みたいだ。まるで異世界スローライフを送ってくださいと言わんばかりの好待遇。ホントにラッキーだ。まあ、心の準備が出来ず元いた世界と完璧に断絶されたのは不幸と捉えることも出来なくはないけど……なんて考えたって仕方ない。第二の人生を楽しもう。
僕は身形を整えると部屋を出て階段を降りリビングに向かうとそこには私服姿の『派遣女神ラフル』さんがコーヒーの様なものとパンを用意してくれていた。
「おはようございます」
「おはようございます。フウタさん。食事ができていますのでどうぞ」
「ありがとうございます」
朝の挨拶をするとラフルさんは淡々と返し食事を取るようにいってくれる。派遣女神の仕事はこうやって身の周りのサポートだったり異世界での知識のサポートをしてくれるらしい。本当に感謝だ。僕は感謝の意味も込めて食事の前で手を合わせる。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
パンを口に運び小麦の甘い触感を味わい、コーヒーを口に含みパンとの凄まじい愛称に改めて感動する。まだ、この世界にきて数日で森の周辺しか見て回っていないのでこの世界のことはまだ全然分からない。ラフルさんの提案もあり自分の『身体に慣れる』ことからはじめている。元々身体が強くなく運動音痴だったやつが栽培マンレベルのパワーを手に入れたらチカラの調整なんて普通できるわけがない。なので、数日は近くの木を倒したり切ったりなどいろいろとチカラを試している。それに切った木などは素材として街持っていって売れたりするらしいので一石二鳥だ。
「たった2日ですが、かなり木の素材が集まったのでそろそろ街に売りに行きましょうか」
「え?もうそんなに溜まりました?」
僕はパンを食べながら少し驚きラフルさんに目線を向けると、ラフルさんは頷き言葉を続ける。
「はい、フウタさんがかなり熱心に修行をなされていたので、予定より早く生計が建てれそうです」
「あ、そうなんですね」
確かに自分のチカラにテンションが上がり過ぎて木を伐採しすぎたかもしれない。技名とかも考えていたぐらいだ。正直、男子としては仕方がない。
「男子としては仕方ないと思っていると思いますが、やりすぎるとよくないので気をつけてください」
「あ、はい」
まあ、そうだよね。今の僕の行為ってある意味自然を破壊してるもんね。
「それと私の風呂の覗きはしないでくださいね」
「いえ、してませんけど」
突然、意味の分からないことを言われたので反射的に返すが、本当に覗いてないし、いきなり冤罪をかけられた。しかも、ラフルさんは初日に「いくら女神の私が魅力的だからって覗きはダメですし、手も出してはいけませんよ」と何故か自身満々に言ってくるものだから素で「いえ、そんなことしませんけど」と返したら何故か寂しそうな顔をしていたな。男として興味ない訳ではないが、普通に犯罪なのでやる訳がない。お茶目なのか、淡々としてるのか正直よく分からない。まあ、ひとつ分かることはこの人は僕と同じで慣れたらはっちゃけるタイプだってことだけだ。
「あまり木を切ってはいけないことはなんとなく分かりますけど、もし、この周辺の伐採が限界になったら別の場所でやるってことですか」
これからの生活に大事なことなので確認するとちょっと虚しそうにしていた顔を整え答えてくれる。
「はい、それまでにはフウタさんも遠くにいく体力はかなりついてると思うのでその時は採掘なり討伐クエストなどをすればいいと思います」
討伐クエストか……正直、自分のチカラを試したいと思うけど、普通切傷はしたくないので、採掘を視野に入れておこうかな。
「まあ、なんというか本当にラフルさんがいて助かります」
「え?」
僕が素直にお礼を告げると少し驚いた表情を向ける。
「はい、正直いきなりこんな世界に放りだされてもアニメや小説みたいに上手くいくわけないし、本当に感謝です」
「いえ、そんな」
僕の言葉に謙遜しつつも少し嬉しそうにする。
「そういえば、聞くのを忘れてましたけど、いつまでいてくれるんですか?」
「いつまでですか?」
今度は質問の意味が分からないといった感じで首を傾げながら答える。
「フウタさんが2度目の人生を終えるまでです」
「ええ!?そうなんですか!?」
「いやですか?」
「いえそんなことはないですけど、さすがに僕が死ぬまでなんて贅沢すぎますし、それに下手したら何十年もラフルさんの人生を奪うことになるので」
僕が慌てて訂正しながらいうと、「なんだそんなことか」といった表情をすると冷静に答えてくれる。
「私は派遣とはいえ『女神』です。そんな対した時間ではありませんし、フウタさんの時間で分かりやすくいうと『数か月派遣先に出張してる感覚』です」
「例えが絶妙」
あまりに絶妙な例えにツッコんでしまうが、まあ、確かに言われてみればそうだ。人間と神様って想像もできないくらいかけ離れたものだ。そんな神様に僕は今いろいろと教えてもらってるだけでも厚かましいを越えた厚かましいだ。例えるなら地球から月までの厚い壁だ。いや、なに言ってるんだ?
まあ、とにかくすごいってことだ。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様です」
僕は手を合わせて食への感謝を伝え、食器を流しに持っていく。
「私がやるのでいいですよ」
「いえ、せめてこれだけはさせてください」
片づけをしなくていいといわれるが、そんな訳にはいかない。食事を出してくれたんだ。せめてこれだけでも。
流しに食器を置くと僕は少し固まる。
「………………」
僕は生前もご飯をつくってくれた母に少しでも感謝の気持ちを込めて食器などは自分で片づけていた。しかし、僕は手荒れなどが起きやすかったので洗い物はしなくていいと言う母の言葉に甘えてしまっていた。母もかなり手が荒れていたのに……。ごめん、かーさん。
「……よし!」
僕は生前やってあげられなかった洗い物を自分でする。もう遅いってことは分かってるけど、せめてこの気持ちを忘れない内に……。
「………………」
後ろから悲哀の様な視線を感じるが気付かないフリをする。水道から流れる水が食器にかかりそれとは別の水滴がいくつも落ちていった。




