第17話 フラウムの大切な居場所
月の灯が僕たちを照らし、夜風に綺麗な金髪が靡き美しい少女の表情は固まったいた。
しばらく、沈黙が続き、少女は笑顔を作る。
「いえ、なんにもありませんわよ」
その笑顔はどうみてもぎこちなかった。
「ここ数日ちょっと元気ないね」
「……!?」
僕の言葉に目を見開くと顔を下げる。
「………気づいていたんですのね」
「ま、まあ」
気付かなかったというと『嘘』になる。だけど、気付いていたかと問われると、気付いててなにもしなかったので、今更こんなことを言うなんて無責任だろう。
僕は、頬を掻き誤魔化すように顔を反らす。
「なんというか、僕でも気付いたんだ。多分、2人も気付いてると思うよ」
また沈黙。正直、話が下手な自分が憎い。言葉に悩んでいると、フラウムさんが先に口を開く。
「一番はじめに気付いたのは、フウタさんですわ」
「え?」
その言葉に僕は反射的に顔を向けると、フラウムさんはこっちの目を真っ直ぐ見つめる。
「フウタさんがワタクシの異変に気付いた時の目、忘れませんわ。ですが、ワタクシは敢えて平穏を演じていましたわ」
「確かにはじめは気のせいだと思っちゃうくらいだったね」
「意外と鋭いんですのね」
「そんなことないよ」
そう、本当にそんなことはない、人の異変に感じていたのになにもしなかったなら、気付いてないのと同義だ。
「少し、食後の運動も兼ねて歩きましょうか」
そういうと、フラウムさんは背を向けて歩き出す。だが、家とは反対の方向だ。僕は静かについて行くと、少しずつ話出す。
「はじめての会った時のこと覚えてますか?」
「うん」
話はじめたのは、出会った時の話だった。正直、その話題に首を傾げてしまうが、次の言葉を待つ。
「なんでワタクシがフウタさんに話しかけたかも覚えてますか?」
「確か『勘』だよね」
彼女が僕たちに話しかけてきたのは、ただの『勘』だったはずだ。それを聞いたフラウムさんはクスリと笑う。
「フウタさん、『勘』を侮ってますわね?女性の勘はすごいんですのよ?実際、大正解でしたわ」
「そうなの?」
「まあ、分かってるのに、意地悪な返しですわね」
彼女はイタズラっぽく返す。
「あの時、フウタさんを一目見た時の顔、『ワタクシを知らない不思議そうな顔』でしたわ」
「え?どういうこと?」
「はじめてお会いした時、言いましたわよね。貴族は能力を持たないことを知られれば場合によってはと」
「ああー」
なんかあったなー。下手すれば死刑とかうんぬんかんぬん。
「パーティーを探している時は、それを隠すつもりでしたわ。ですが、フウタさんを見た時、ワタクシの勘が貴方になら話してもいいと感じました」
「やっぱりそれってただの勘だよね?」
やっぱりフラウムさんの言ってることがイマイチ分からない。
「だから、言ったではありませんか。女の勘はすごいと」
フラウムさんは「それに」と付け加える。
「フウタさんの『幸運』があったのかもしれません」
「え?」
突然、幸運と言われ反応してしまう。
「きっとフウタさんの『幸運』がワタクシを導いてくれたんですわ」
「………………」
幸運、とても適当で理由になってない言葉………でも、もしそうなら、とても嬉しい幸運だ。
「なんといいますか、こんなに皆さんと食卓を囲むのが、こんなに楽しいなんて思いませんでしたわ。それこそ………家族のような温かさでしたわ」
「……そうだね」
家族……もう会えない人達の感覚を確かに僕も感じていた。
「ですが」
だが、楽しそうに話していたフラウムさんの顔が急に曇る。
「もうそれも『今日でお終い』ですわ」
「え?」
え?今日で終わり?なにが?
「え?なにが今日で終わりなの?」
突然の言葉に僕は慌てるが、彼女が口を開かなくても、背筋に汗が走る。
どうかこの『イヤな勘』は外れてほしいと。
「実家に戻されることになりましたわ」
「……!?」
外れてくれなかったようだ。
「いや、ちょっと待って?一体どうしたの?」
僕は、いきなりのことに理解ができず、少しパニックになる。
「大丈夫ですわ。今の家はそのまま住んでいただいて構いませんわ。その様に手続きは済ませてありますわ」
「そういうことじゃなくて!」
僕は無理やり彼女の言葉を遮る。なにから聞けばいい?なんでそうなってる?ああもう!聞きたいことが纏まらない!
「はじめての採掘が原因ですわ」
「え?」
言葉が纏まらない僕にフラウムさんは説明してくれる。
僕たちのはじめての採掘の時に洞窟の一部が崩れ、僕たちの命の危険が及んだことが原因らしい。しかも、その時のフラウムさんははじめての採掘なのにいきなり難易度の高いものに行き、僕とピンコさんを危険に晒したのが、父親にバレてその責任で実家に戻され、しばらく、家から出してもらえなくなるそうだ。
「それって、フラウムさんは悪くないじゃないか」
その理論が僕には分からなかった。採掘は危険を承知でやるものだ。まるで、無理やり戻すような理由。
「それでも、はじめに誘ったワタクシの非が大きいですわ」
フラウムさんは自分に言い聞かせるようにいうが、彼女も納得がいってないのは、哀しそうな顔を見れば分かる。
「実家に戻ってどうするの?」
「わかりません」
僕の質問に一言静かに返す。
「なんで言ってくれなかったんだよ!!」
「………!?」
つい怒鳴ってしまい、フラウムさんは身体をビクリとさせる。
「ご、ごめん」
いきなり当たるようなことをしてしまい慌てて謝る。
「もし、従わなければ、皆さんを追い出し、別荘を処分すると言われました。それだけは…………本当に…………いやだった…………」
お嬢様口調を忘れてしまうほど、彼女は悔しそうな顔をする。
「出会って、たった数か月なのに、こんなにこんなに離れたくないと思うなんて、やっと出来たワタクシの居場所なのに…………」
行き場のない手で服を握りしめ、悔しさを滲ませる。
「………………」
どうする?彼女の父親を説得する?どうやって?それに、『彼女を家族から引き離すと言ってるようなもの』だぞ?
「…………!」
その考えに僕の思考は鈍る。ここにきて『家族』って……ずるいだろ。
「………………」
なにも言えない僕の背後に回るとフラウムさんは、突然、背中に抱きつき乗り出した。
「え?」
突然の行動に戸惑っていると、フラウムさんの声が背中から聞こえる。
「ワタクシ、一度、夜空を飛んでみたいと思ってましたの。是非、最後に付き合ってくれません?」
「…………」
最後って……。
「二度と会えなくなる訳じゃありませんわ。でも、帰る前に夜空の中を飛んでみたいですわ」
明るい声で言っていたが、肩に回された手からは震えていた。
「…………わかった」
僕は、静かに返すと夜空を飛び、家に向かった。
そして、思考が纏まることはなかった。




