第16話 お嬢様としみしみおでん
人々が寝静まる時間。街から少し離れた場所に小さな灯がともる。そこから漂う温かい匂いに夜の住人が集まり、晩酌を楽しむ。
「へい、お待ち」
「まあ、美味しそうですわ!」
その雰囲気に似つかわしくない、金髪の美しい少女が出汁に染みたおでんを見て目を輝かせる。その少女は箸で大根を切り、そこから出る湯気と香りに喉を鳴らす。そして、丁寧に一口サイズに切り終えると口に運ぶと頬を赤らめに手を当てる。
「しみしみですわ~」
素直なリアクションに大将は釘づけになると、大笑いする。
「だーはっはっは!お嬢ちゃんいい食べっぷりだねー!おじちゃん嬉しいよ!ほれ、おまけ!」
「ありがとうございますわ」
大将は、ご機嫌にフラウムさんのお皿におまけをする。
彼女に誘われてきたのは、まさかのおでん屋台だった。真剣な顔で誘われるものだから、なにか大事な話があるのだろうと身構えていたので、僕は少し唖然とする。
ていうか、この世界におでんがあったことが驚きだ。だったら、クア・レイってなんなんだよ、という疑問が拭いきれない。
「フウタさんは食べないんですの?なんならお酒も頼んでもいいですわよ」
箸があまり進んでいない僕にフラウムさんが首を傾げるが、それには理由があった。
「僕、猫舌だから、少し冷ましてからじゃないと食べれないんだ。それにお酒はあまり得意じゃないからいいよ」
おでんの大根は好物だ。だけど、昔から熱いものに弱かった。それにお酒は得意じゃないのは本当だが、とーさんがよくお酒関係でやらかしてたからいい印象がなかったので、あまり好きではない。
なんて考えてる内にいい感じに冷めたので、僕も大根を頂く。
「……!?」
大根を食べると衝撃が走った。フラウムさんの表現は大げさだと思ったけど、とてもよく染みていて、噛んだ時の出汁が舌を刺激する。本当によく煮込まれたものだ。
「お、おいしい……!」
衝撃的過ぎて僕も目を輝かせてしまう。
「お、にーちゃんもいい食べっぷりだね!こっちにもおまけしちゃおう!熱いから気をつけな!なんなら嬢ちゃんにふーふーでもしてもらいな!」
「いいですわよ!ふーふーしますわ!」
「え?」
フラウムさん意外とノリがいいな。なんて思いながら僕は、自分でふーふーしながら、大根を口に運ぶ。
「それにしてもにーちゃん見かけない顔だね。それに別嬪のお嬢ちゃんでいいカップルだねー」
「いや、カップルで……」
「すわ」
「え?」
「カップルですわ!」
「ぶふっ!」
突然の爆弾発言に僕は咽てしまい、驚いて彼女を見ると笑顔で言葉を続ける。
「もうそれは、大将のおでんのようにしみしみのあつあつカップルですわ!」
なんかめちゃくちゃ上手いこと言い出した。それを聞いて大将はさらに大笑い。
なにわろてんねん!
「フウタさん大丈夫ですか?良ければお酒を飲んでください」
「よけい咽るよ」
なんでさっきからお酒を進めてくるんだよと心の中でツッコミながら水を飲む。
その後、大将とフラウムさんのちょっとうざいおっさんノリに付き合うこととなった。
「お勘定お願いします」
「ここはワタクシが出しますわ」
僕は席を立ち、お金を出そうとすると、フラウムさんに止められる。
「いや、わるいよ」
「いえいえ、遠慮なさらず」
悪いという僕にフラウムさんは大将に数枚の小切手みたいなのを渡した。それを確認した大将は、少し驚いた顔をした後、また、笑い出す。
「はーはっは!これは随分と大物なお客さんができたね!またごひいきに!」
「はい!是非」
フラウムさんは大将に笑顔を返すと屋台を出て、僕もそれに続く。
「あれは?」
彼女がなにを渡したのか気になり聞くと答えてくれる。
「皆さんがこれから来れるようにワタクシに支払いがくる小切手ですわ。是非、今度『皆さん』で行ってください」
「………………」
「それにしても美味しかったですわね!ワタクシああいったところでお食事するの憧れていたんですの」
…………さすがに気のせいじゃないよな。
「その『皆さん』に『フラウムさんは入ってる』?」
「え?」
フラウムさんは、振り返り驚いた顔を向ける。
「なにがあったの?」
僕はここ数日の疑問をぶつけた。




