第13話 ピンコの新しい大切なモノ
はじめての採掘から数日が経った。落石で頭を大きく撃った僕は、街に帰ってきてすぐに病院に連れていかれた。病院の先生に事情を話すと、とても驚かれた。大きな落石で頭をぶつけたのもそうだが、脳へのダメージは最小限で済んでいたのだ。本当に不幸中の幸いである。高級鉱石の換金も予想以上のお金になった。しかも、雪崩からも沢山の鉱石が出て、それがまさかの大金となった。数日、街で話題が持ち切りだったそうだ。なんで他人事かというと、僕は大事を取って家から出ない方がいいと言われ、ゆっくりしていた。そこら辺の対応はフラウムさんがやってくれたようだ。本当に感謝だ。
「フウタさん、この度は誠に申し訳ありません」
「いや、本当に気にしなくていいよ」
謝るフラウムさんに僕は大丈夫だというが、彼女はかなり気にしていた。僕の苦しむ顔を見たいっていう、イタズラ心で採掘に行き、僕を怪我させてしまったからだ。まあ、なんというか、僕の運が悪かっただけだから、本当に謝らなくても大丈夫だ。ここ数日、何回謝られたことか。
「いえ、ワタクシの軽率な考えでいきなり中級クエストに行き、この通りですわ」
「ホントに大丈夫、それに今も包帯を代えてくれたり、いろいろやってくれてるのが、ありがたいよ」
そう、彼女は他の対応で忙しいはずなのに、僕の面倒を見てくれてるのだ。それだけでも、至れり尽くせりである。
だが、包帯を巻きながらも暗い様子だ。……よし。
「じゃあ、今度さ。カレー作ってよ」
「え?クア・レイですか?」
そうだった。クア・レイだった……。まあ、いいや。
「また、食べたいと思ってたんだよね」
「………………」
僕の言葉にフラウムさんは固まる。
「ご、ごめん、ちょっと贅沢すぎたね。フラウムさんも今忙しいもんね」
「今日でもいいですか?」
「え?」
慌てて訂正しようと思った僕の言葉にフラウムさんは被せてくる。
「今日作ってもいいですか?」
「え?逆にいいの?」
まさかの言葉に驚くと、フラウムさんはクスリと笑う。
「はい、むしろ作らせてほしいですわ」
「あ、ありがとう」
包帯を巻き終えるとフラウムさんは僕に会釈し、厨房に消えていった。
本当にありがたいな。
なんて思いながらも、広間を見回す。
ラフルさんは仕事がないからか、少し不満そうに紅茶を飲んでいる。正直、僕は仕事がないならなにもしたくない、むしろ、働きたくないタイプなので、何故、不満そうなのかと思ってしまう。文脈だけだと、クズっぽいけど、前世で死ぬほど働かされたのでこの気持ちを許してほしい。
そして、僕はもう一人の人物に目を向ける。
「………………」
ピンコさんは静かに本を読んでいた。それに、ここ数日元気がない。そりゃそうだ、気にしてないといっていたが、僕のせいで大好きなおばあちゃんからの大切なホウキが瓦礫の底に埋まってしまったのだ。あの後、瓦礫撤去と鉱石回収でホウキの一部を回収できたようだが、当然、使い物にならなかったそうだ。落ち込むのも当然だ。もし、「新しいのを買えばいいじゃん」という輩がいるなら、死んだ方がいい。まじで死んだ方がいい。そういう問題じゃないんだ。
「………………」
よし。
僕は椅子から立ち上がり、ピンコさんの前に行く。ラフルさんは首を傾げ様子を伺う。だが、ピンコさんは本から目を離さなかった。
「ピンコさん」
「………………なんじゃ?」
気配には気付いていたようで、本から目を離さずに声だけを向ける。そっとしておいてほしいと言った感じか。だけど、僕は話しかけ続ける。
「ちょっと、ついてきてほしいところがあるんだけど、付き合ってもらってもいいかな?」
「……え?」
その言葉が意外だったのか、本から目を離し驚いた顔を向ける。
後ろでガタンと音が聞こえた気がした。
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人々で賑わう城下町、僕とピンコさんはその中を歩いていた。
家を出る時にラフルさんも付いてこようとしていたが、申し訳ないけど、今回は留守番してもらうことにした。凄くショックを受けた顔をしていたのが、本当に申し訳ない。帰りにシュークリームでも買っていってあげよう。
街から離れているため飛んで行こうと思ったのだが、ラフルさんがいなくて、しかも、ホウキがないから、空が飛べないことをすっかり忘れていた僕は、まさかの歳下の女性をおんぶするという形になってしまった。
ちょっと気まずい空気が流れたが、ピンコさんは途中から楽しそうに話をしてくれたので、すぐに街に着いた気がした。
街の中を歩き、そのまま目的の場所に向かい、見えてきた看板を指さす。
「……ここは」
ピンコさんはそれを見て、少し驚くが、僕たちはそのお店に入る。
そこは冒険、採掘道具のあるお店だった。店内は、武器や小道具などが沢山置いてあった。
「……お主、まさか」
僕の考えを理解したのか、ピンコさんは驚いたようにこちらを見る。
「なんていうか、そのさ、おばあちゃんのホウキの代わりにはなれないかもしれないけど、それでも、少しの間でも代わりができるものが、必要だと思って」
上手く言葉が出てこないので、言葉が繋ぎ繋ぎになってしまう。それを聞いたピンコさんは少し呆れたように笑う。
「そうじゃな、あのホウキの代わりなんてないからのう。代わりなんて出来るものなんて存在しないのじゃ。そのくらい大切なものじゃった」
「………………」
やっぱりそうだよな……少しでも元気になってほしかったけど、方法が間違ってたかもしれない。なんて思っていると、ピンコさんは、店内を物色しはじめ、とある場所で止まる。
そこはホウキが沢山あった。恐らく、ピンコさん以外にも魔女が買いにくるコーナーだろう。
「………………」
しばらく、ホウキを眺め、ひとつのホウキを手に取る。
「これがいいのじゃ。買ってくれぬかのう?」
「もちろん」
当然、僕は頷き、そのホウキを買ってあげた。
店内を出ると、ピンコさんはそのホウキを何度も握って確認していた。そして、なにかを考えるように固まっているかと思ったら、顔はこちらに向けずに言葉を向ける。
「もうひとつほしいものが、あるんじゃが…………いいかのう?」
「え?うん」
頼みずらそうにしていたが、僕は気にせず頷くとピンコさんは少し笑う。
「そうじゃったな……お主は、優しいからお願いは基本断らぬのう」
「さすがにイヤなことは断るよ」
「イヤじゃないということじゃな?」
「ま、まあ」
突然、優しいと言われるから、ちょっと照れくさくなって否定してしまうが、ピンコさんはイタズラっぽく笑うと歩き出した。
ついて行くと、小物店的なところについた。中に入り、ピンコさんは真剣な顔で小物を見ていた。かなり長く見ていたが、相当大事なものを選んでるんだろうと、僕は静かに見守る。
しばらくして、僕の方に向き真剣な顔を向ける。
「お主はどれがいい?」
「え?」
なにを選んでるのか分からなかったので、僕は、首を傾げると答えてくれる。
「このホウキにつける小物がほしいんじゃ」
「それに?」
ピンコさんは頷き、言葉を続ける。
「このホウキはおばあちゃんのものと同じにはなれぬ、だから、『新しいモノとしての印』がほしいんじゃ」
「………………」
なるほど、代わりじゃなくても、新しいモノとして使い、思い出の中で存在することはできる。彼女は思い出のホウキを捨てない選択をしたのだ。
僕は、小物の前に行き、個人的にさっきから目に入っていたものを手に取る。
「これかな」
迷いのない僕の動きにピンコさんは驚く。
僕が選んだのは、真ん中に緑の石のようなものが付いたリボンだった。
「なぜそれを?」
「僕の好きな色だから」
「!?」
ピンコさんの質問に迷わず答えると彼女はまた驚いた顔をする。
「そ、そうかい」
「ごめん。さすがに適当すぎるかな」
「それにするのじゃ」
「え?」
さすがに適当過ぎるて引かれたと思ったが、ピンコさんはそのリボンを指さす。
「え?いいの?ピンコさんのモノだから好きなの選んでいいんだよ」
「それが気に入ったのじゃ」
もう決めたといった感じで、ピンコさんは譲らなかった。
それを買いお店を出て、ベンチに座ると、ピンコさんはリボンをホウキに結んだ。それを前に掲げて眺める。
「ありがとのう。大切にするのじゃ」
とても嬉しそうな顔に僕も笑みが零れた。
その後、ラフルさんたちのシュークリームを買って帰ろうとしたところ、まだ、ホウキに慣れてないという理由でまたおんぶしてほしいと言われたので、僕は素直に従い夕暮れの空を飛んだ。だけど、出迎えてくれた2人が何故かとても機嫌が悪かった。そして、何故かシュークリームも一切効かなかった。




