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第12話 ピンコの大切なモノ

「………………ん……ん?」


 朦朧とする意識の中、少しずつ頭の中が色づく感覚がした。なんだか、温かくて、とても安心する。そんな、気持ちを感じながら、僕の視界がぼやけながらもはっきりと覚醒していく。


「……あ……れ?」

「おう、目覚めたかのう」


 目覚めた僕の視界に真っ先に飛び込んできたのは、ピンコさんの顔だった。


「……ピンコさん?」


 倒れたいるはずなのに彼女の顔が見えるってことは、彼女が覗き込んできているのか?と考えていると、ふと、頭の感覚に気が付く。彼女は右手が光っており、僕の頭を触っていた。恐らく、治療魔法だろう。しかし、それよりも気になる感覚があった。それはとても柔らかくて暖かい。僕は、それの正体を察して、目を見開く。


 ピンコさんに膝枕をされていたのだ。


 それに気付いた僕は、目を泳がせる。


「どうしたのじゃ?」

「あ、はい、いえ、なんでもありません」

「動揺しすぎじゃろう」


 ピンコさんは僕の反応に呆れながら、右手を見る。


「これが効率がよかったんじゃ」


 僕が、思った以上に初々しい反応をしてしまったので、彼女も顔を少し赤くする。


「なんで僕、こんなことに?」


 問いかけると、顔を反らしながら答える。


「恐らく、さっき直撃した落石が原因じゃろう。その後、慌ててわたしゃを助ける為に激しい動きをしたから、脳震盪を起こしたんじゃろう」

「そうなんだ、ごめん」

「なんで謝るんじゃ。お礼をいう筋合いは合っても謝られる筋合いはないのじゃ」


 ピンコさんは僕に顔を向けると、怪訝な顔をし溜息を吐く。


「まあ、急にわたしゃの上に倒れてくるもんだから、襲ってきたと勘違いして、焦ってお主の横腹に3発ぐらい拳を叩きこんでしまったがのう」


 それは謝ってほしい。だから、さっきから左横腹が痛いのか。


「とにかくじゃ。恐らく、ラフルさんが助けにきてくれると思うのじゃ。だから、このまま体力の温存じゃ」


 確かにラフルさんならすぐに助けにきてくれそうだが、まだ来ていないことを考えると何かあったのかもしれない。または、さっきの獣に苦戦してるのかも。


「その……ピンコさん、ごめん」

「だから、なんで謝るんじゃ」

「ホウキ」

「え?」


 僕の言葉にピンコさんは目を見開く。目で見える範囲だったが、ピンコさんは『ホウキを持っていな』かった。そりゃそうだ、さっき『地面に置いていたから』だ。


「大切なホウキだったんでしょ?」

「………………」


 ピンコさんは目を逸らすと、少し考えた後、口を開く。


「知っておったのか?」

「……いや、いつも大切そうに手入れしていたから」

「そ、そうかい、意外と鋭いのう」


 鋭いもなにもいつもあんなに大切そうに手入れをしてたから、誰でも気付くだろう。それこそ、冗談でも本来のホウキの使い方である掃除になんて使ったらどうなることか。


「……わたしゃはのう……こう見えても、おばあちゃん子じゃ」


 ピンコさんは話はじめる。


「確かにおばあちゃんは怒ると怖かったし、三日間ハムスターにされた時は、一生分のトラウマを味わったものじゃ。だが、わたしゃはおばあちゃんが大好きじゃ。今もたまに顔を出しとるし、様子を見にも行っとる」


 暗い表情をしながら、瓦礫の山を見る。


「おばあちゃんは、かなり不愛想な人でのう。いつも「なにをしにきた」、「わたしゃは忙しい」とあまり会話になっていなかったのじゃ。でも、そんなおばあちゃんがくれたのが、『あのホウキ』だったんじゃ……ホントに嬉しかった、おばあちゃんからのプレゼント」

「………………」


 彼女の大切なモノを失った顔は、辛かった……。


「……ごめん」 


 僕は、謝ることしかできない。彼女の気持ちが分かったからこそ、大好きな人から貰って大切にしていたモノを失った時の哀しみが本当に痛いほど分かる。僕もおばあちゃん子だったからだ。


 僕の家庭は裕福って訳ではないけど、家族と楽しく過ごしていた。裕福じゃないからこそモノは大切にするし、靴に穴が空いても履くぐらい大切にしていた。僕のおばあちゃんはおばあちゃんと呼ぶと怒られたので、おかあさんと呼んでいた。そのおかあさんもピンコさんのおばあちゃんと同じく不愛想だったが、僕たちを大切に思ってくれてる人だった。


 学生時代、おかあさんは穴開き靴を履いてる僕に新品の白色の靴を買ってくれた。僕は、嬉しくてそれを履いていった。しかし、当時いじめられていた僕は、帰り道に蹴とばされ、田んぼに落とされた。落とした奴らは僕を笑っていた。だけど、僕はそんなこと『どうでもよかった』、なによりもショックだったのが、『おばあちゃんが買ってくれた白色の靴を泥まみれにされたこと』だ。僕は、なにも言わず、田んぼから上がり、後ろから嘲笑う声を無視し帰路についた。大好きな人から貰ったものを汚され大粒の涙を流しながら。それ以降僕は、死ぬまで黒色の靴を履いていた。あの事故の日も……。


「本当にごめん、どう考えても僕の不運のせいだからさ」

「…………」


 僕の言葉にピンコさんはなにも言わない。


「『他のパーティーを探した方がいいかもね』」

「え?」


 なにも言わなかったピンコさんは驚いたように口を開く。

 

「なんでそんな話になるんじゃ?」


 僕の言葉が理解できないと言った感じだ。


「僕もおばあちゃん子だからさ」

「!?」


 その言葉でピンコさんは目を見開いて驚いた後、また、沈黙が流れる。


「………………」

「………………」


 お互いになにも言わず、数分が流れた……。


「わたしゃの大事なホウキはポッキリじゃ」

「?」


 突然、ピンコさんは独り言のように前を見て話し出す。


「だから、どうしたのじゃ」

「え?」


 彼女の言葉に今度は僕が目を見開く。


「わたしゃは好きでお主達とおるのじゃ。そうでなければ、住む場所が見つかった後に、すぐにでもトンズラ噛ましとるところじゃ」

「いわれてみれば……でもなんで?」

 

 確かに彼女の言う通りだが、何故今も彼女は僕たちから離れないのか、気になっていた。そんな疑問に彼女はあっさり答えてくれる。


「『楽しそうじゃったから』、それ以上でもそれ以下でもないのじゃ」


 彼女は顔を下げ、こちらを見る。その顔と言葉に嘘は感じられなかった。


「お主は、訳の分からないくらい『不運』で、びっくりするぐらい『幸運』じゃ。だから、お主と一緒におると楽しそうで一緒にいることを決めたのじゃ。わたしゃのその判断は間違ってなかったみたいじゃがな」


 ピンコさんはこちらの目をしっかりと捉え、「それに」と言葉を続ける。


「わたしゃの知らんところで、死なれても困るのじゃ」


 彼女は純粋に笑っていた。本当に楽しそうに。



ーーーーーーーーー



「すみません、少し手こずってしまいました!」

「大丈夫ですか!?フウタさん!?」 


 数分後、ラフルさんとフラウムさんが、目の前に現れて。慌てて駆け寄ってきたが、僕たちを見て固まる。


「なにをしているのですか?」

「………………」

「なにってどうみても膝枕じゃろう」


 どうみても膝枕ですね。いい逃れが出来ない程、膝枕である。


「お楽しみのところお邪魔しました。では、私達は先に帰らせてもらいます」 


 ラフルさんは背を向けて、去って行きそうだったので、僕は慌てて止めようとしたが、先にピンコさんが彼女を止める。


「ちょいまち!今はそんなことしとる場合じゃないのじゃ。フウタさんはわたしゃを助けた時に十数分程、脳震盪で倒れてしまったのじゃ!早く病院に連れてくのじゃ!」

「え!?」

「そ、それは大変ですわ!?ラフルさん!今は一刻も早く治療を!」


 フラウムさんは慌てて僕の前にしゃがみ、ゆっくりと起こしてくれる。


「は、はい!」


 それを見たラフルさんもこちらに駆け寄る。


 ピンコさんの言葉を受け、2人はゆっくりと僕の両肩を持つ。しかし、左脇腹に激痛が走る。


「ぐっ……!?」

「フウタさん!?」

「何処か怪我を!?」


 2人はさらに慌てた表情を浮かべる。


「だ、大丈夫……ちょっと痛いだけ……」


 右脇腹を抑え、痛みが引くのを待つ。それを2人は心配そうに見ている。


 ピンコさんは目を逸らすと気まずそうに口を開く。


「すまん、フウタさんがわたしゃを助けた時、わたしゃを押し倒す形になってしまってそのまま上に倒れてきたものだから、つい反射で脇腹に3発程拳を叩きこんでしまってのう」

「………………」

「………………」


 ピンコさんの言葉にさっきまで心配してくれてた2人の顔が真顔になり、なにも言わず、見つめてくる。


 やめて!脇腹じゃなくて視線が痛い!

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