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第1話 幸運転生

 人生ってなにが起こるか分からないってよく言ったものだよね。悪い事があった後には良い事が訪れる様に願って。逆も然りで良い事があれば悪い事が起こる前兆なんじゃないかと怯えたりもする。そんなのは迷信と鼻で嗤う人もいるだろう。でも、僕はそうは思わない、寧ろそれは……『平等に訪れるものだと思っていた』ーーーーーー


 なにもない真っ白な空間。いや、見方によっては薄暗いとも言えるか……そんなよく分からない場所でどれ程泣いただろうか……そしていつ泣き止んだだろうか……いつから記憶が飛んで意識を手放しただろうか……いつ意識を取り戻しただろうか……そんな精神がぶっ壊れる空間で僕は地面かも分からない場所に仰向けになり、見えない天井のシミを探す様にただひたすら虚空を眺めていた。


 すると遠くからコツコツと足音が聴こえ、誰かが近づく気配がした。


「落ち着きましたか?『幸運転生者』さん」


 その言葉の主に僕は目だけを向けると皮肉にも聞こえるその言葉とは裏腹に水の様な髪の綺麗な女性が僕を心配そうに見下ろしていた。


「『運がいい』か……」


 僕は自分を嘲笑う様にポツリと呟く。


 彼女は不思議そうに首を傾げた。僕はそんな疑問にチカラなく答える。


「ここに来た時の言葉を思い出していたんですよ。女神さま」


 そう、僕は死んだんだ。本当に前触れもなく突然に運が悪く()()()()


ーーーーーーーーーーー


 僕は『赤三鳥あかみどり風太ふうた』どこにでもいる普通の社会人だった。仕事で精神が病み仕事を止め、数か月寝たきりになっていた。まあ、ハラというハラが横行しハラハラ上等だったので当然だ。だけど、数か月寝込んだお陰で少し体調が良くなり寝込んでいる間に無常に時は過ぎ年末になってしまった。その日は母の誕生日で心配をかけたお詫びにこっそりケーキを買って母の喜ぶ顔が想い浮かび心を弾ませていた。また明日には楽しみにしていた友人達との温泉旅行が楽しみだと鼻歌混じりに歩いた。


 すると突然、目の前に激しい光が突っ込んできた。


 正直、なにが起きたか認識する前に死んだと言った方がいいかもしれない。


ーーーーーーーーーーー


 そして、気づいたらこの場所にいた。唖然とする僕を他所に目の前に現れた謎の人物が『アナタは運がいい』など事故で死んだなどと意味の分からないことを言い出し、一方的に説明をすると去って行ってしまった。唯一覚えているのが、『派遣女神が付いてくる』という本当に意味の分からない情報だけ。


 それからの僕は徐々に状況を理解して崩れる様に泣き出した。そして、知らない内に気絶し、今に至る。 


「あの女神さま……僕はどのくらいの時間こうしてました?」


 やっと意識がはっきりとしてきた僕は顔だけを女神さまに向け聞くと答えてくれる。


「アナタの世界でいうところ4か月程です」

「ええ!?4か月ッ!?」


 かなりの間僕はこうしていたのかと驚き上半身が反射的に飛び起きる。それを見て女神さまは「やっと起きた」と呟いた。


「……あはは……人間そんなに泣けるんですね。そんなに動かなかったら逆に死んじゃいますよ」

「もう死んでますからね」


 僕がブラックジョークをいうと淡々と返されてしまった。そして、決まずい沈黙が流れる。


「なんなんでしょうね……正直死んでから『アナタは運がいいです』って言われても意味が分からないですよ」


 誰に言うでもなく、愚痴る様にいうとまた女神さまは質問に答えてくれる。


「因みにですが、アナタの幸運は『コントロールが効かない幸運』です」

「え?」


 女神さまの言葉に反射的に顔を向ける。


「アナタ……いえ、フウタくんは元々『超不運で超幸運体質』なんです」

「!?」


 その言葉に僕はびくりとカラダが反応する。


「自覚があったようですね」

「は、はい……」


 僕の反応をみた女神さまが問いかけてきて僕は「……あはは」と乾いた笑いを返す。


「なんというか、日常生活やいろんなことでは『運が悪い』んだけど、突然、当選1名のやつに数回当たったりなんてことがあった気がするな」


 確かにほぼ全員の友達からも「お前ほど運が悪くて運がいいやつにあったことがない」とよく言われたことがあったな。


「日常の些細な不運は自覚できるほどよく訪れていたと思います」

「でも、そのおかげで『運が帰ってきた』んですよね?」


 僕が問いかけると女神さまは首を横に振る。


「いえ、別に帰ってきてた訳じゃなく『元々運がかなり悪かった』だけで、別で『幸運だった』だけです」


 めちゃくちゃあべこべなことを言われ頭の上に無数のハテナが浮かび上がる。


「つまり『大切な日に死んでしまう不運』の後に『派遣女神の幸運を引いた』ってことです」

「ていうか、そもそも『派遣女神』ってなんですか?」


 さっきから疑問に思っていたことをぶつけると女神さまは自分胸に手を当て質問に答える。


「本来なら異世界転生なんてことは極稀にしか起きない出来事なんですが、その異世界転生に『派遣女神である私が同行する』んです」

「ええ!?マジデスカッ!?」


 と大げさに驚きつつも正直よく凄さが分からないので反応だけ返しておく。確かにあの時は動転して気にする暇はなかったけど、説明だけして去っていった女神さまと違う女神さまが話をしてくれていたことに今更気が付く。


「フウタさんの世界でいう【スキル】あげますうんぬんかんぬんプラス『私』です」


 急に説明が適当になったけど、女神さまは胸を張りドヤ顔をする。


「えーーーーーっと?つまり?僕も何か『スキルがもらえる』んですか?」

「はい、フウタさんはかなり幸運だったので【強い人になったスキル】です」

「スキル名適当」

「と、私です」


 そんなスキル名でいいのかというツッコミにまたドヤ顔を重ねてくる。そんなに自分に自信があるのか?と疑問に感じつつ不安が過ぎる。


 …………こういう自分に自信持ってる人って大体自称だったりなにか欠点があったりするんだよな。


 なんて考えていたが、敢えて考えないように思考を振り切ると、別の疑問をぶつける。


「その僕のスキルってどのくらい強いんですか?」

「試しにチカラを開放してみてください」


 試しにって言われても、なんて考えていたが取り敢えずやってみることにした。


 僕は、足を肩幅に開き、両肘を上に曲げ拳を握り思いっきりチカラを込めてみる。


「はああぁーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 某有名な気合の入れ方と叫びをしてみると周りの空気が吹き飛ぶような感覚を感じ体の中からチカラが沸き上がってきた気がした。


「す、すごい!!」


 僕は元々運動音痴だったのでカラダが動くという感覚には無縁だった為、人生ではじめて……いや、死んでるけど、感じる感覚に驚きを隠せなかった。


「ど、どう!?今の僕、どのくらい強いですか?」


 あまりにテンションが上がりすぎて女神さまに問いかける。


「【戦闘力】でいうところ【1200】ですね」

「まさかの栽培マンレベル」


 意外と低い戦闘力に反射的にツッコンでしまった。……いや、栽培マンも十分強いけどね。もっといい例えはなかったのか?なんて心の中で言っていると更に追い打ちをかけてくる。


「因みにアナタの転生する異世界の魔王はダーブラぐらい強いです」

「ダメじゃん!」

「よくて汚い花火です」

「ちくしょおおおおおおおおお!!」


 僕は膝から地面に崩れ落ち地面を両手で叩きつける。いや、ワザとやってるだろ!この女神ッ!


「転生する意味ないじゃん!魔王に挑んだら瞬きで殺されるってなんだよ!」

「別に魔王を討伐しなくてもいいですよ」

「え?いいの?」


 転生前に精神をボロボロにされてたところに突然の朗報で顔を上げる。


「はい、アナタは幸運なので悪の魔王のいる異世界は選択されませんでした。世界は基本平和でたまに凶悪な魔物や帝王が湧いたりしますが、その世界の戦士が魔王より強いので倒してくれてます」

「情報量すごいですね!?魔物と帝王って落差ありすぎるし、戦士が魔王より強いんですか!?」


 ていうか、それって僕全然強くないじゃん……。ま、まあ、命がけの戦いしなくて済むだけマシか。


「ところで女神さまはこれからなんてお呼びすればいいんですか?あっちに行っても女神さまではちょっと僕が言いにくいです」


 ふと、彼女の名前を聞いていなかったことを思い出し尋ねると「あっそうでしたね」というと咳ばらいをする。


「これは失礼しました。私の名前は『ラフル・ル・レイン』です」

「ラフル・ル・レイン?」


 変な名前だなと失礼なことを思ってしまったが、あっちからしたら僕も大概か。


「まあ、大体は説明しましたので、そろそろ行きましょうか」

「え?もうですか?」

「私は4か月待ちました。もう新学期はじまってます」


 あ、そういえば、僕は4か月も人ならぬ神を待たせていたのか。


「では、そろそろ大女神さまに本格的に怒られそうなので行きますよ」


 そうラフルさんがいうと手が白く輝き足元に魔法陣みたいなのを出し僕を包んでいく。


「え、ちょ?まだ心の準備が!」


 僕の叫びは空しくヒカリの中に消えていった。

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