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蝕んでいく

今日も僕は目覚めた。

親は共働きだ。2人とも働きに出ていて、僕は独りで朝食を作り、身支度をしなくてはならない。


眠気で上手く開かず、世界がぼやけて視える視力の弱い目を擦りつつ、洗面所に向かった。

泡だてネットに石鹸を擦り付け、立てた泡を顔に塗り、洗い流して顔を見た。


今日も相変わらず僕は冴えない顔をしているな。


今日は変な夢を見た。

中学1年生になった僕が高校3年生の谷田みなみに恋する夢。


現実は、僕も谷田みなみも同級生。高校3年生だ。


不思議な夢だった。


隣の席の谷田みなみ。大人しい印象で、自分から誰かに喋りかけることは基本的にはない。


だから、僕は今まで同じクラスのお隣の席だというのに、谷田と会話したことがなかった。


のだが。


「自分の第一志望の大学について、隣の席のやつにプレゼンしてみろー。上手くプレゼンできなかったやつは危機感持てよー」


と、今日は担任教師の余計な発案で隣の席の人と自分の受験校について話し合うことになってしまった。


流石自称進学校。無駄なことをやらせてくる。他人に自分の受験校を晒して何になるというのだ。受験は個人戦だぞ。バカ教師。非効率な勉強法を教えているのに、自身を受験のプロだとか評するのはいかがなものか。


とは思っても、従う他ないので、

「谷田。よろしく」

と声をかけた。


谷田は死んだ魚のような目で心底興味関心がなさそうに僕を見た。

「よろしく…っと…誰だっけ…?」

これでは僕の志望校をプレゼンをしたとしても、まともに聞いてもらえないのではあるまいか。


「真田健だよ。名前くらいは覚えてほしいな」


「そっか。ごめんね。なんて呼べばいい?」


「健君で」

ん?

「え…?」

谷田は引き攣った顔をしている。

そりゃあそうだろう。

ほぼ会話したことのない同級生に自分のことをいきなり『下の名前+君付け』で呼ばせるのはいかがなものかと思うぞ、僕。

自分でもどうしてこんなことを言ったのか分からない。

だが、谷田は引き攣った顔を崩し、

「あっはははっ!」

と爆笑をいただけた。

何が面白かったのか。

僕は、今の時代、男の呼ばせ方というものはなんというか、セクハラだとか男尊女卑とかそういう社会問題に抵触しないかの心配をしていたところだったが、そんなものは全て谷田の笑い声に吹き飛ばされた。


と、明らかにさっきまでとは谷田のオーラが違った。明朗快活な雰囲気を纏い、谷田は打って変わって、目を輝かせて

「健君は好きなもの何?」

と僕に聞いてきた。

死んだ魚の目をしていた先程までと同じ目だとは到底思えない。

「…黒薔薇…?」

「どうして?」

「…園芸委員会に入っているから…?」

「園芸委員会だからって黒薔薇好きだとは限らないでしょう?」

「そうかな?」

「お花好きなの?」

「うん」

「可愛いね」

「そりゃどうも」

「だから、園芸委員会に入ったんだ?」

「うん」

「面白いね」

「…そうかな?」

「好きな色は?」

「パステルカラーだったら、大体。あでも、一番好きなのはライトブルー」

「同じだ!私もパステルカラー好きだよ!」

「は…はぁ…」

「一緒なの嬉しいね」


な…なんだ…?谷田ってこんなに喋るヤツだったのか?マシンガントークが止まらない。


谷田は自分の机の上に腕枕を作り、腕の中に自分の顔を埋めて、上目遣いでニコリと微笑み僕を見た。


「君は話しかけたくなる」


どくんっ。


どこかで聞いた言葉。


「健君は変わってるね!」

満開の笑顔。

「先輩こそ…」


…ん?

「先輩こそ…」ってなんだ?

谷田は同級生だ。

今までが悪い夢だったはずなのだ。

背筋に冷たいものが走った。


嫌な予感がした。


例えば、額に浮いているはずなのに、その感触がない脂汗とか、荒くなっているはずなのに、そのリズムが分からない呼吸とか、胸がざわめき、興奮して、交感神経が優位のはずなのに、副交感神経が無駄な仕事をして過労死する気なのか鼓動が静かな心臓とか。


「せんぱ…」

と言いかけたところで視界が歪んだ。

まるで、卒業した谷田先輩を待ち続けて、風邪を引いて、倒れた時みたいに。

そんな記憶ないはずなのに。


「い……………………………………………………だよな…」


『目が覚めると』僕は中学二年生だった。


「………はぁ…!…なんなんだよ…クソッ…!」


自宅の少し汚れた天井を見つめたまま、僕は身動きができなかった。


しばらくして、僕の部屋の扉が開く音がした。

谷田先輩…なわけがなかった。

「健、起きなくていいの…?もう、8時だよ?」

母だった。

…本当は最初から夢だってわかってた。

親は共働きなんかじゃない。母は専業主婦だ。セットした目覚ましアラームで起きれなかった時は起こしてくれるし、朝食は親が作ってくれる。

「…いい………………………………………………………いい」

「そう?たまには学校サボってもいいけれど、ちゃんと卒業できるようにはしてね?」

卒業。

僕の呪い。

しばらくその言葉は聞きたくなかった。


…先輩も僕と同じ夢を見ていたりしないかな。

…それで、「幸せな夢だったな」なんて、僕のことふと思い出したりしないかな。


そうだ。また眠ったら、夢の中で会えるのではなかろうか。

そんなことを考えながら、眠って見た夢は先輩が死ぬ夢だった。僕は暗い空間に独りで閉じ込められ、死にゆく先輩をただ眺めることしか出来なかった。


明晰夢だったので、嫌になって、飛び起きた。


それから僕は夢と同じように顔を洗い、夢の中よりも5年幼くなった冴えない顔をしばらく見つめてから、リビングへ向かい、ソファに座った。


リモコンを握り、テレビをつけると、谷田先輩がスポーツ飲料のCMに出演していた。

爽やかに先輩がドリンクを飲んで、清々しく弾けるように笑っていた。


遠い。


谷田先輩はこんな笑顔を世界中の人々に届けているんだな。

僕はその僅か15秒程度のCMを最後まで見終える前にテレビの電源を切った。

お読みいただきありがとうございます…✨

健君の夢についてのお話です…✨

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